兄弟の溺愛に堕ちて
あの甘くて、どうしようもなく熱いキス。

忘れようとすればするほど、昨日の感触が鮮やかによみがえる。

キーボードを打つ手が、ほんの少し震える。

——私は何をしているんだろう。

このままでは、あの人にも、この人にも、顔向けできなくなる。

モニターの光がやけに眩しく感じた。

すると、一真さんがふっと口元を緩め、ニヤニヤと笑い出した。

「そろそろじゃない?」

「……何がですか?」

怪訝に問い返すと、一真さんは目を細め、悪戯っぽく言った。

「あいつの、“美咲〜!”って泣き寝入り。」

ドクン――心臓が大きく跳ねた。

まるで、昨日の出来事を全部知っているみたいな言い方に、背筋がぞわりとする。

その瞬間、社長室のドアがノックもなく開いた。

「美咲さん、この書類お願いしてもいいかな。」

低く落ち着いた声――蓮さんだ。

私は慌てて立ち上がり、手元のペンを置いた。

「はい。」
< 25 / 106 >

この作品をシェア

pagetop