兄弟の溺愛に堕ちて
「ここと、ここと……それから、ここを直してもらうだけでいいから。」

そう言って書類のページを指し示す蓮さん。

「わかりました。」

必要以上に声が硬くなる。

視界の端で、一真さんが面白そうにこちらを眺めているのが見えた。

——やめて、そんな目で見ないで。

昨日の夜、蓮さんに抱きしめられ、何度も「好きだ」と囁かれたことが、鮮やかに蘇る。

その記憶を必死に押し込めながら、私は書類を抱えて社長室を出た。

背中に、一真さんの含み笑いが刺さるように残った。
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