兄弟の溺愛に堕ちて
「似合いますか?」

緊張で声が震えていた。

一真さんはゆっくりと私を見て、微笑んだ。

「ああ、本当に似合うよ。」

その言葉に心臓が跳ねる。

たったそれだけの笑顔で、私はどれだけ救われてきたのだろう。

——それだけで、いい。そう思っていた。この瞬間までは。

「おはよう。」

低い声が背後から聞こえ、私はハッとして振り返った。

蓮さんが社長室に入ってきたのだ。

鋭い視線が、まっすぐ私を射抜く。

とっさに、私は胸元のペンダントを手で覆った。

見られてはいけない。

この贈り物が意味するものを、蓮さんに悟られてはいけない。

「どうかした?」

蓮さんの声は何気ない風を装っているのに、どこか探るような響きを帯びていた。

「いえ……何でもありません。」

笑顔を作ろうとしたけれど、頬が引きつっているのが自分でもわかる。

蓮さんの視線と、一真さんの優しい笑顔。
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