兄弟の溺愛に堕ちて
これはただの社長としての気遣いだと、わかっている。

それでも、心のどこかで特別に扱われているような錯覚をしてしまう。

誤解してしまう自分が、いちばん危うい。

そして極めつけは、「明日のランチ、どこ行こうね」と、ごく自然に誘ってくるところだ。

デスクに肘をつき、資料に目を通しながら、何気なく口にされるその一言に、胸が高鳴る。

特別じゃないって、わかっている。

秘書だから、社長とランチに行くのは珍しいことではないはず。それでも——。

ほぼ毎日、二人で出かける昼のひとときは、私にとって何よりも特別だ。

カフェの席で並んで座り、仕事の話をしたり、時には冗談を言って笑い合ったり。

その時間があるだけで、また明日も頑張れる。

だからこそ、間違いなく私の恋は更新され続けてしまう。

諦めたい。だって、この恋が叶う可能性はきっと低い。

社長と秘書——立場も距離も、簡単には埋まらない。
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