兄弟の溺愛に堕ちて
午後になって、私は山積みの書類を抱え、コピー機の前で単調な作業を繰り返していた。

社長室に戻ればまた次の指示が待っている。

それでも、少しでも一真さんの力になりたくて、ひたすら黙々と手を動かした。

「美咲さん。」

不意に背後から名前を呼ばれて振り返ると、蓮さんが数枚の書類を持って立っていた。

「またコピー、お願いできるかな。」

柔らかな声。私は思わず苦笑する。

「ああ、今日はちょっと難しいと思います。」

ちらりとガラス越しに社長室を見やる。

今も一真さんは電話に向かい、険しい顔で取引先と話し込んでいた。

声も、視線も、私には向かない。

その様子に蓮さんは小さく頷き、少し間を置いてからふっと笑った。

「……今日、俺が誕生日祝おうか。」

「えっ?」思わず声が裏返る。

蓮さんはイタズラっぽく目を細め、ニコッと笑った。
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