兄弟の溺愛に堕ちて
そして定時になった。

「社長、あの……」

思わず声をかけると、一真さんはペンを止めて顔を上げてくれた。

「今日はもう上がっていいよ。誕生日くらい、ゆっくり過ごすといい。」

「……ありがとうございます。」

深く頭を下げたけれど、胸の奥はどうしても寂しかった。

背中を向け、一歩踏み出したところで――足が止まる。

どうしても離れがたくて、もう一度だけ振り返った。

「社長。」

「なんだい?」

ああ、言いたい。本当は、ただ「一緒に過ごしたい」って。

でも、忙しい彼にそんなわがままは言えない。

「……お疲れ様でした。」

笑顔をつくってそう告げると、私は小さく胸の奥に痛みを抱えながら、社長室を出た。

オフィスを出ると、廊下で蓮さんが待っていた。

「行こう、美咲。」

「……うん。」

そのまっすぐな視線と、壁にもたれて立つ姿に――思わず胸が高鳴った。
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