兄弟の溺愛に堕ちて

第3章 出張

翌日。私は何もなかったかのように、オフィスに姿を見せた。

だが本当は、すべてが昨日と違っていた。

黒のスーツは昨日と同じ。

だが中に着ているのは、蓮さんのシャツだ。

薄いストラップの黒のジャケットの隙間から、見慣れないシャツの襟が覗く。

その布地からほのかに香る匂いが、昨夜の熱を思い出させて胸がざわめいた。

「おはよう、美咲。」

低い声に振り向くと、一真さんが立っていた。

いつも通りの社長の顔。

けれどその視線が一瞬止まり、ハッと何かを悟ったような気配を見せる。

……気づかれた?同じスーツであることに。心臓がドクンと跳ねた。

「社長、今日の懇親会の予定です。」

私は努めて事務的に資料を差し出した。

「ああ、ありがとう。」

一真さんは受け取りながらも、目線を逸らさない。

言葉にはしないけれど、沈黙が妙に重く感じられる。

その大人の距離感がかえって気まずくて、胸の奥がざわざわと波立った。
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