兄弟の溺愛に堕ちて
昨日まで、私はこの人にずっと片想いしていた。

けれど昨夜、蓮さんに抱きしめられ、愛され、涙が零れたとき、やっと分かったのだ。

――もう一真さんに囚われなくていい、と。

そう思っているのに。今こうして同じ空気を吸っていると、背筋を刺すような視線が、私の心を揺らしてくる。

資料を持つ手が小さく震える。

机に置いたスマホが震えて、画面に「蓮さん」の名前が浮かんだ瞬間、一真さんの瞳がさらに深く私を射抜いた。

私は息を呑み、平静を装いながらスマホを裏返した。

――これからは、もう二人の時間だ。

それでも、社長の沈黙が胸を締めつけて離さなかった。

一真さんは、きっと分かっている。

私が昨夜、泊まったことを。けれど何も言わない。

ただ社長として、いつも通りの顔で、私に次々と仕事を振ってくる。

「この稟議書、確認してくれるかな。」
「はい。」

「あと、林道社長が今日来るから対応を頼む。」
「承知しました。」
< 60 / 106 >

この作品をシェア

pagetop