兄弟の溺愛に堕ちて
その目は遠い記憶を思い出すように静かだった。

「だから同じように門前払いを食らう若い連中を、少しは試してみるんだ。一度くらいは機会を与えてもいい。……続くかどうかは、あいつ次第だがな。」

その言葉に、私は胸を打たれた。甘やかしているのではない。

経験者として、若者に挑戦の場を与える。それこそが一真さんの貫禄なのだ。

周囲で彼に挨拶してくる経営者たちも、一真さんを「若いのに頼もしい」と口々に評していた。

人は自然とこの人に集まる。――私もまた、その一人なのだ。

忘れようとしても、心はますます惹きつけられていくのだ。

チェックインを終え、渡されたカードキーは二枚。私はその場で首をかしげた。

「二室……?同じ部屋でもよかったんですよ。」

つい口にしてしまった。

経費のことを考えれば、二部屋なんて無駄だ。

一真さんは立ち止まり、淡く笑った。

「うん。でも、一緒にいたら間違いも起こるでしょ。」
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