兄弟の溺愛に堕ちて
「じゃあ、美咲。今日はゆっくり休め。」

そう言って部屋を出ていく蓮さんの背中を見送りながら、私は胸に手を当てた。

(秘密を抱えているのは……こんなに苦しいのに、どうして少しだけ嬉しいんだろう。)

ベッドに戻ると、私はゆっくりと目を閉じた。

大丈夫。私は蓮さんに愛されている。そう、もう片想いで満足している私じゃない。

そう思い込もうとするのに、頬を伝って涙が零れ落ちる。

「ううっ……」

どうしてなんだろう。

愛されれば愛されるほど、胸の奥に大きな穴が広がっていく。

「うわあああん……」堰を切ったように声が漏れる。

だって本当は、私——。

(私が求めているのは、一真さん……)

なのに、蓮さんの熱でその想いを押し流して。

心の形を誤魔化して。

(ごめんなさい、一真さん。ごめんなさい、蓮さん……)

枕を抱きしめ、声を殺して泣いた。
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