兄弟の溺愛に堕ちて
一真さんの声は穏やかなのに、有無を言わせない響きを持っていた。

けれど、同時に不安が押し寄せる。

(私なんかが、そんな場に立っていいの?噂にならない?……蓮さんに見られたら?)

胸の奥でざわめく感情を必死に抑えながら、私は小さく頷いた。

コピー機から紙を取り出していると、不意に人影が差した。

顔を上げると、蓮さんが少し照れたように立っていた。

「……同じ会社なのに、あまり一緒にいる時間ないな。」

囁くような声。周囲に気を遣ってのことだとわかって、胸が温かくなる。

「蓮さんが取締役だからですよ。」

思わず返してから、はっとした。

(そうだ……取締役ということは、当然パーティーにも出席するはず……)

胸の鼓動が早まる。

意を決して尋ねた。

「……今度の久我ホールディングスのパーティー、蓮さんも行くんですか?」

少し言いづらそうに、蓮さんは目を逸らした。
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