兄弟の溺愛に堕ちて
「……分かった。仕事なら仕方ないよ。」

寂しげな微笑みを残し、蓮さんは振り返ることなく去っていった。

その背中が、妙に遠く感じられた。

——私は馬鹿だ。

秘書だから。仕事だから。

それ以上でもそれ以下でもない。

そんな思いを抱えたまま社長室に戻ると、一真さんが机の上に何かを置いた。

「美咲、ドレス買った?」

「いえ、まだです。」

視線を向けると、高級ブティックの紙袋がひとつ。

「昨日のうちに見立てておいた。サイズは秘書課に確認してある。気に入らなければ替えてもらえばいい。」

さらりと言いながら、当たり前のように用意してくれている。

胸の奥にじわりと広がるのは、安心感と……戸惑い。

(私なんかに、どうしてここまで……)

紙袋に指をかけながら、心臓がまた忙しく跳ねた。
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