兄弟の溺愛に堕ちて
握手、軽妙なやりとり、未来の話。

彼はすべてに臆することなく応じ、隣に立つ私を「秘書です」と紹介していく。

私の手の震えまで気づいているのか、時折、そっと肘を支えてくれる仕草があった。

そのたびに胸が高鳴って、——まるで恋人のように見えてしまう。

だが心のどこかで思ってしまう。

(これは仕事。私は、ただの秘書。)

華やかな音楽と人々の笑い声の中で、私は自分にそう言い聞かせながら、一真さんの隣を歩き続けた。

そして来賓が到着した。

一真さんは私に「ここで待ってて」と言い残し、人の波の方へと歩いて行ってしまう。

私は置き去りにされたようにテーブルの端に立ち、グラスに注いだオレンジジュースを手にした。

氷がカランと音を立てるたび、やけに空虚な気分になる。

——やっぱり、一真さんは輪の中心に立つ人だ。

背筋を伸ばし、笑顔を浮かべる姿は堂々としていて、そこにいるだけで空気が変わる。
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