兄弟の溺愛に堕ちて
何……今の。

ただの忠告? それとも……。

確かに蓮さんは、初対面から興味を隠そうともしなかった。距離も近いし、話し方も妙にくだけている。だけど——。

胸の奥がざわつく。社長のあの言葉には、単なる上司としての心配以上の何かがあった気がする。

そして私は知る。あの瞬間から、私を巡る二人の兄弟の距離が、静かに変わり始めていたことを——。

片づけを終えて会議室を出ると、ちょうど営業部から戻ってきた蓮さんと鉢合わせた。

「ご挨拶、終わりましたか?」

「そうだね。」

さっきまでの軽口とは打って変わり、落ち着いた雰囲気をまとっている。

……あれ? 雰囲気が違う。

「今、“二重人格?”って思ったでしょ。」

「えっ!」

「図星。」

そう言って、蓮さんは私の額をちょんと指で突いた。

近すぎる距離に思わず息を呑む。

「兄貴の前ではね、明るくいるようにしてるんだ。」

「……どうしてですか?」

問いかけると、蓮さんは少し視線を落とし、笑みを薄くする。

「昔から、兄貴が気を張ってるときは、俺が空気をやわらげる係なんだよ。」
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