兄弟の溺愛に堕ちて
見つめ合う視線に、胸が痛いくらいドキドキする。

今、私の頭の中は一真さんのことでいっぱい。

秘書としての理性なんて、跡形もなく吹き飛んでいた。

「あ、あの、私……」

必死に言葉を探しながら、一歩、後ろに下がる。

その瞬間、一真さんの腕がそっと外れて、胸の奥がズキンとした。

でも——

「怖がらなくていい。」

低い声が夜風を震わせる。

次の瞬間には、再び力強く抱き寄せられていた。

「俺は、美咲が嫌がることをしない。」

耳元に落ちた紳士的な囁き。

心をほどくように優しいのに、抗えない重みを持っていて……

私は息を呑んだ。

——違うの。
——本当は、嫌どころか……もっと奪って欲しいのに。

言えない気持ちが、胸の奥で熱く暴れていた。

欲しい。一真さんが。

もう、この近い距離に我慢できない。

私は震える指先で、そっと一真さんの袖を掴んでいた。

「美咲?」
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