赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「はっ、その程度で」
「揺らぎますわ、陛下。それも、容易く。陛下は数の暴力を舐めすぎでございます」
澱みないよく通る声がセルヴィスに分の悪さを告げ、
「宮廷から追いやられた呪われた皇子様が皇帝陛下までのし上がる。夢物語のようで、本当に素敵ですね。ですが、現実ではどうでしょう?」
自信に溢れた紫紺の瞳が物知り気に語る。
「"国"とは"人"が作るものなのです。伝統や慣例を軽んじ、古参の貴族を蔑ろにし、帝国の柱である四家の力さえ削る。公明正大、清廉潔白。理想的で素敵な響き。ですが」
パチンっと扇子を閉じたグレイスは、
「独りよがりな"暴君"は、どの時代でも滅んでいます。数の力の前に、例外なく」
1は1でしかなく、支持者がいなければ"国"を治めることはできないのだと今のセルヴィスに足りないものを指摘する。
「国として別れたとはいえ、ハリス大公はオゥルディ帝国の正統な血を引いている。さて、付け入る隙があるならば、帝国貴族はどちらにつくでしょう?」
「……何が言いたい?」
「私を"正妃"としてご紹介くださいませ。キャメル一族がご支援いたします」
そうすれば全て丸く収まります、とグレイスは打開策を提示する。
「直球だな」
「根が商人なモノで」
ビジネスチャンスは逃しませんの、と言ったグレイスは、
「ああ、ご安心ください。陛下からの愛は必要としておりません。どうぞ、好きなだけイザベラ妃をお愛でになって?」
彼女とは上手くやれそうですし、と側妃の存在も許容してみせ、自分との関係はあくまで政略的なモノだと言い切る。
「さぁ、陛下。我が国に仇をなす害獣を退けに参りましょう」
どうぞこの手を取って、と差し出された指先まで綺麗に整えられた白い手。
実際、グレイスは全てを持っている。
美貌も、人脈も、財力も、全て。
彼女を正妃として娶ればセルヴィスの地位は揺らがず、盤石なものとなるだろう。
そして寵妃として認知されているイザベラのいない今、妻として紹介しそれが罷り通るのも確かに帝国四家の出であるグレイスだけだった。
唯一残っている王家の血筋である大公家に隙は見せられない。
たとえ策略であったとしてもこの手を取るべきなのはセルヴィスも分かっている。
だが。
『失望させないでください』
彼女の言葉が耳朶に響く。
『大丈夫、ヴィーならできる。私はそう信じてる』
セルヴィスを引き留めるのは、はにかんだような、照れた笑いと彼女からもらったおまじない。
「はっ、舐められたモノだ」
セルヴィスは口角を上げ、グレイスの提案を吐き捨てる。
「俺を誰だと思っている」
セルヴィスは"なりたい"自分を思い浮かべる。
唯一無二の絶対君主。冷ややかに気に入らない全てを跳ね除ける暴君の姿を。
「誰であっても俺の前に立ち塞がるというのなら、容赦はしない。その首を刎ねて進むまでだ」
セルヴィスはお前の助けなど必要としていない、とキッパリとグレースを跳ね退けた。
「……っ! 後悔、なさいますよっ!!」
提案を退けられると思っていなかった紫紺の瞳が揺れる。それを見て薄く笑ったセルヴィスは、
「生憎と妻は一人しか必要としていない」
そう言い捨ててグレイスに背を向け部屋から出て行った。
その瞬間だった。
王都内で突如大きな魔力の揺れを感じ、彼女にかけた防護魔法が発動した。
「……イザベラ」
居所が分かると同時にセルヴィスは狼の姿で彼女の元に駆け出していた。
「揺らぎますわ、陛下。それも、容易く。陛下は数の暴力を舐めすぎでございます」
澱みないよく通る声がセルヴィスに分の悪さを告げ、
「宮廷から追いやられた呪われた皇子様が皇帝陛下までのし上がる。夢物語のようで、本当に素敵ですね。ですが、現実ではどうでしょう?」
自信に溢れた紫紺の瞳が物知り気に語る。
「"国"とは"人"が作るものなのです。伝統や慣例を軽んじ、古参の貴族を蔑ろにし、帝国の柱である四家の力さえ削る。公明正大、清廉潔白。理想的で素敵な響き。ですが」
パチンっと扇子を閉じたグレイスは、
「独りよがりな"暴君"は、どの時代でも滅んでいます。数の力の前に、例外なく」
1は1でしかなく、支持者がいなければ"国"を治めることはできないのだと今のセルヴィスに足りないものを指摘する。
「国として別れたとはいえ、ハリス大公はオゥルディ帝国の正統な血を引いている。さて、付け入る隙があるならば、帝国貴族はどちらにつくでしょう?」
「……何が言いたい?」
「私を"正妃"としてご紹介くださいませ。キャメル一族がご支援いたします」
そうすれば全て丸く収まります、とグレイスは打開策を提示する。
「直球だな」
「根が商人なモノで」
ビジネスチャンスは逃しませんの、と言ったグレイスは、
「ああ、ご安心ください。陛下からの愛は必要としておりません。どうぞ、好きなだけイザベラ妃をお愛でになって?」
彼女とは上手くやれそうですし、と側妃の存在も許容してみせ、自分との関係はあくまで政略的なモノだと言い切る。
「さぁ、陛下。我が国に仇をなす害獣を退けに参りましょう」
どうぞこの手を取って、と差し出された指先まで綺麗に整えられた白い手。
実際、グレイスは全てを持っている。
美貌も、人脈も、財力も、全て。
彼女を正妃として娶ればセルヴィスの地位は揺らがず、盤石なものとなるだろう。
そして寵妃として認知されているイザベラのいない今、妻として紹介しそれが罷り通るのも確かに帝国四家の出であるグレイスだけだった。
唯一残っている王家の血筋である大公家に隙は見せられない。
たとえ策略であったとしてもこの手を取るべきなのはセルヴィスも分かっている。
だが。
『失望させないでください』
彼女の言葉が耳朶に響く。
『大丈夫、ヴィーならできる。私はそう信じてる』
セルヴィスを引き留めるのは、はにかんだような、照れた笑いと彼女からもらったおまじない。
「はっ、舐められたモノだ」
セルヴィスは口角を上げ、グレイスの提案を吐き捨てる。
「俺を誰だと思っている」
セルヴィスは"なりたい"自分を思い浮かべる。
唯一無二の絶対君主。冷ややかに気に入らない全てを跳ね除ける暴君の姿を。
「誰であっても俺の前に立ち塞がるというのなら、容赦はしない。その首を刎ねて進むまでだ」
セルヴィスはお前の助けなど必要としていない、とキッパリとグレースを跳ね退けた。
「……っ! 後悔、なさいますよっ!!」
提案を退けられると思っていなかった紫紺の瞳が揺れる。それを見て薄く笑ったセルヴィスは、
「生憎と妻は一人しか必要としていない」
そう言い捨ててグレイスに背を向け部屋から出て行った。
その瞬間だった。
王都内で突如大きな魔力の揺れを感じ、彼女にかけた防護魔法が発動した。
「……イザベラ」
居所が分かると同時にセルヴィスは狼の姿で彼女の元に駆け出していた。