赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「ねぇ、コレどうしたらいいと思う?」

「冬を3周くらい越せば全部に袖が通りますよ」

 当然のように言われた言葉に私は苦笑し、私は指輪のなくなった指に視線を落とす。
 来年の冬どころか、次の春さえ見られるか分からないこの身にコレは重すぎる。
 私はただの契約妃。そして、セルヴィス様は私が過度な贈り物を好まないことを知っている。
 後宮での生活費を労働で払えとオスカーから言われる程現在の帝国は無駄金を使わない主義のはずだし。
 さて、これらはどう処理するのが適切か。

「物だけ? 陛下から言付けはないの?」

 ヒントを求めてシエラに確認すれば、

「好きにして良い、と」

 セルヴィス様直筆のカードが出てきた。
 なんともセルヴィス様らしい、と笑った私は、

「よし、売ろう! で、離宮の使用人の冬用制服一新しましょう」

 もっとあったかくて動きやすいやつに、と即座に贈り物の使い道を決める。

「は? 陛下に下賜されたモノを売り払うって、本気!?」

 私の決断に思わず素が出たシエラに私は苦笑する。

「だって、冬支度の予算足りてないんでしょ?」

「確かに後宮の割り当て予算は少ないけど。だからといって、売るなんて」

 否と首を振るシエラに、

「だって陛下がそうしろ、と言っているのよ」

 なかなかの目利きね、とざっと査定しつつ説明する。

「流行遅れのドレスを纏っている妃を連れて歩いたらそれこそ陛下が恥をかくわ」

 ここに並んでいるのは、現在注目されていて入手困難な品ばかり。これなら貴族向けのオークションで充分元が取れる。
 表立って敗戦国の王女である私に金銭の融通ができない代わりに、それを元手に後宮内を好きに変えろ、と言ってくれているのだ。
 さすがセルヴィス様、私の事をよく分かってらっしゃる。

「それにもう少し資金が欲しいなって思ってたの。あなた、下級使用人に無償で教育を施しているでしょう?」

「……知っていたの?」

「雇おうとする相手を調べるのは当然でしょう」

 シエラの言葉に私は頷く。
 正妃になりたいのは、落ち目のリタ侯爵家を救いたいから。
 私を敵視していたのは、私がオゥルディ帝国に再び戦火をもたらす原因になりかねないから。
 正しいかどうかは置いておいて、彼女なりの理由があったのだろう。
 喜怒哀楽の激しさと自分視点の正義感で先走ることが多いけれど、冷静になりさえすればどうすべきなのか考え行動に移せる素直さはシエラの美点だと思う。
 圧倒的男性優位なこの国で、自分を持て余していたシエラ。
 せっかく拾ったのなら、彼女のいいところを伸ばしてみよう。というのが、ここ数週間彼女を観察した私の結論だった。

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