赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 客間を訪れれば、再び何かが破裂するような盛大な音が鳴り響いた。
 これは、一体? と目の前の光景に私は驚き目を瞬かせる。

「何やってるよの、アルカっ!?」

「あはははっ、驚いたかい? これはポップコーンと言って爆裂種という乾燥とうもろこしに水蒸気爆発を起こして作る食べ物なのだよ」

 サプライズだよといって豪快に笑う美女。
 淡い水色のふわりと跳ねた髪と藤色の瞳は記憶の通りだが、何故か肌が褐色になっている。だが、そこにいるのは間違いなくアルカ・オッド・ホープその人だった。

「ちなみにオススメの食べ方はシンプルに塩だ」

「それは料理のできないアルカが塩しかかけられないからでしょ!?」

「失礼な! ありとあらゆる味付けを試し研究しつくした結果の塩だ!」

「留学までして一体何を研究しに行ってるのよ!?」

 テーブルにごちゃごちゃと置かれたアルカの研究成果物らしいモノをびしっと指してツッコむシエラ。
 普段どう頑張ってもツッコミどころしか見当たらないシエラがツッコミにまわっている。
 なるほど、この二人だとこうなるのかと関係性を理解したところで、私は軽く壁を叩き、

「アルカ嬢、お久しぶりですね」

 と声をかける。

「おおーイザベラ妃! 久しぶりだね」

「ええ、アルカ嬢も相変わらずですわね」

 本当に相変わらずだな、この人。
 と、苦笑しながらやりたい放題に散らかされた部屋を見た私は、

「とりあえず、お茶にしましょうか」

 まずはお茶を飲めるスペースの確保からね、と肩をすくめた。

「おおー塩が一番だと思っていたが、これはこれでアリだな」

 私が味付けしたポップコーンを遠慮なくポリポリ食べるアルカ。
 ちなみにお味はアルカ一推しの塩以外にバター醤油とキャラメル、チョコを用意し、ガラスの皿にそれぞれ上品に盛ってみた。

「はぁ、生き返るーー。こっち帰って来たら私のお城(研究室)も解体されてたし、監視だらけ。お嬢様やるなんて、息が詰まりそうだったんだ」

 はっはっはーなんて、笑い飛ばしながらポリポリポップコーンを貪り食べるアルカ。
 アレ、侯爵令嬢ってこんな感じだっけ? と視線を移せば、

「手、手で直接食べるだなんてはしたない」

 アルカの行動に恐れ慄くシエラが目に入る。

「そ、それに何よこの奇怪な食べ物はっ! どう見ても何かの種だったのに、一体これはなんなのよ」

 初めてのポップコーンにめちゃくちゃ戸惑っているシエラ。
 多分こっちが正しい令嬢の反応! とシエラのいい反応に私は思わずガッツポーズをする。

「郷に入れば郷に従うのが礼儀。魔塔ではみんな手掴み食べをしていたし、ビーカーで茶も飲む」

 というわけでこの食べ方が一番美味しんだと勧めるアルカ。

「ビーカー……って、ここ帝国だし。郷に入るならウチの流儀に従いなさいよっ」

 カルチャーショックを受けたらしいシエラはそれでもなんとか自分を保ち応戦する。
 柔軟過ぎるアルカと固すぎるシエラ。足して割ったら丁度良さそうね、と思いつつ私はポップコーンに手を伸ばす。

「うん、美味しい」

 久しぶりに作ったけれど、我ながら上出来。

「ちょっ、イザベラ様、あなたまで」

「別にアルカ嬢の前では取り繕わなくていいわ」

 その代わり、と私はシエラの前にスプーンと共にポップコーンを差し出す。

「あなたは先入観だけで物事を判断し過ぎる。私の女官を名乗るなら、自分で判断なさい」

 私の命令にぐっと身構え息を呑み私から差し出されたスプーンとポップコーンに視線を向けたシエラは、

「……分かったわよ」

 ため息と共に指を伸ばし手でポップコーンを口に運んだ。

「美味しい」

 わぁ、と未知の食べ物に目を輝かせたシエラはニヤニヤと彼女を見ている私とアルカの視線に気づき、

「ま、まあまあといったところね! 宮廷のお茶会向きとは言い難いし」

 慌てて弁明した。
 そんな彼女を見てクスクス笑った私は、

「ふふっ、気に入ったようでよかったわ」

 よくできましたと紅茶を差し出した。

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