赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「狭いくらいで文句は言わない。たとえ君の寝相が悪くても」

 カルディアでの夜の私のセリフをなぞらえたセルヴィス様が揶揄うように笑った後、

「だが、物申したいことはある」

 とても真剣な表情を浮かべそう言った。
 伸びてきた大きな手が私の顔にかかっていた髪を掬い耳にかけ、そのまま優しい手つきで私の唇に指を滑らせる。

「君にとって"必要だった"と言った理由はコレか」

「そうです」

 ここまで来てしまったら、もう隠し立てる意味はない。

「リープ病、なのです。帝国に渡った時点で余命1年の宣告を受けていました」

 ならば、別れの言葉は私の口から伝えたい。そう思いながら私は言葉を紡ぐ。

「毒をもって毒を制す。強力な魔力はリープ病という魔毒症状を打ち消すのではないか。憶測の域を出ない不確かな情報に縋ってでも、あの時の私はどうしても生き延びなくてはならなかった」

 本物のイザベラが表舞台に復帰するためには、あのまま"イザベラ"として帝国で死ぬわけにはいかなかったから。

「イザベラと偽り、帝国を欺き、あなたを騙し続けた。全て私の独断です。後悔はしていませんし、どんな処分でも受け入れます」

 もしも、時間を巻き戻せたとしても、私は同じことを繰り返す。
 セルヴィス様にこんな悲しげな顔をさせることになっても。

「それでも、あの時伝えた気持ちだけは本心だと信じてくれたら嬉しいです」

 私はそう言って言葉を締め括った。

「なら、どうして"可能性"があるというのに、今君はそうしない?」

 セルヴィス様は静かにそう尋ねる。
 あの時は憶測の域を出ない不確かな情報だったそれは、確かに効果があった。
 だが。

「もう、必要がないからです」

 時間を稼ぎ本物(イザベラ)に全てを託した今、そうするだけの理由がないと私は首を振る。

「けして生き延びることを諦めたりしないと。どんな手段を使っても必ず俺の元に戻ると約束したのに?」

「売国が叶うまでは、という条件付きだったはずです」

 触れられるほど近くにいても、この人はどこまでも遠い存在で。
 けして、私のものにはならない。

「陛下がここに来られたということは、きっとイザベラから何かしらの条件を飲まされたのでしょう?」

 ここは父やその他の貴族から私を隠すために母が造った場所。
 王城の見取り図にも載らない複雑な隠し通路を通るこの場所に、セルヴィス様が辿り着けるはずがない。
 
「だから、もういいのです。目的が達成された今の私には何の未練もありません」

 最期に言葉を交わす時間がもらえた。
 それだけで充分だ。

< 176 / 182 >

この作品をシェア

pagetop