赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「さよならの時間ですわ、陛下」

 きっと酷い顔をしているだろうけれど、せめてセルヴィス様の記憶に残る私は笑顔でいたくて。
 一緒懸命笑ってみたけれど。

「君は、どうしようもなく嘘つきだ」

 怒りを孕んだ泣きそうな声で一蹴される。

「未練がない? こんなちっぽけな簪一本を今でも大事にしているくせに」

 私の頬を大きな手が包み、紺碧の瞳が私の本性を暴こうと覗きこむ。

「俺は君がその身を襲う痛みに耐えながら、いつだって必死に生きようともがいていた事を知っている。死にたくない、と」

 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 絶対に、死にたくない。
 王女として国から認められなくても。忌み子だと誰に蔑まれようとも。
 何度、この身を毒に侵されようとも。
 ずっと、そう思って生きてきた。
 だって、死んだらベラがひとりぼっちになってしまうから。
 ずっと2人で耐えてきた。お母様が亡くなった時も、クローゼアが敗戦した時も。
 ずっと。
 でも今は、それよりも大事なものができてしまった。

「そんな君が生きることを諦めるとしたら、それは俺のためだろう」

 アルカ達みたいな魔塔の人間やサーシャ先生のような薬師がリープ病の克服にたどり着く日がいつか来る。
 でも、そうでない今は?
 もし獣人の強力な魔力があればリープ病で死なずに済むとわかったなら、セルヴィス様の正体が明るみになった瞬間、彼は世界中から狙われる。
 人間は欲深く自分が可愛いから、希望を前に他人なんて顧みない。
 そしてまた無益な血が流れセルヴィス様の手が赤く染まるのだろう。
 そんな未来は絶対に見たくない。

「私はそんなに立派な人間じゃありませんわ。自分の事しか考えてない、もっと打算的な人間です」

 買い被りすぎだ、と私は主張するけれど。

「君が本当に自分の事だけを考えていたなら、もっと他に取れる手段はあったはずだ」

 君の知識にはそれだけの価値があるのだから、とセルヴィス様は否定する。

「私はチョコレートが狼にとって毒だと知っていてヴィーに食べさせようとしたし、シエラの事も見捨てようとしたわ」

「だが、君はそうしなかった」

 君にはできない、とセルヴィス様はキッパリそういうと、

「俺が知っている君は、いつだって"誰かのため"に必死で知恵を絞り、時には危険さえ顧みないお人好しで強く優しい人だ」

 セルヴィス様はまるで割れ物にでも触れるかのように、そっと私の頭を撫でた。

「君が俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、俺は人類全部が敵になっても君に生きていて欲しい」

 存在することすら許されなかった私に生きて欲しいと願うセルヴィス様は、

「向かってくるものは全部斬り捨てても構わない。だけど、君が望むならそうしない」

 そう誓いを立てて、

「君が枷になってくれるなら、俺はきっと化け物にはならない。だから、俺のために別の選択をしてくれないか?」

 私に生きる意味を提示した。

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