赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「……でも私は、あなたが見初めた暴君王女じゃないのですよ?」

 私は所詮偽物で。
 王女としての価値もイザベラのように人心掌握に長けた才もない。
 これから国を治めていかなければならないセルヴィス様に差し出せるものを私は何一つ持っていないのに。
 視線を落とし顔を伏せた私に、

「俺が好きになったのは、狼相手に屈託なく笑いかけ、俺を怖がらずに救いの手を差し伸べてくれた君だ」

 セルヴィス様の低く甘い声が落ちてくる。

「君から沢山のものをもらったままなのに、こんなにも愛しいと思うのに、俺はまだ君の名前さえ知らない」

 セルヴィス様はそっと手を添え私に顔を上げさせると、

「君の名前が知りたい」

 私に囁くようにそう尋ねる。
 私を暴く紺碧の双眸は暖かく穏やかで、私の言葉をじっと待っている。
 その姿はいつも寄り添ってくれていた、真っ黒な狼そのもので。

「……リィル。リィル・カルーテ・ロンドライン」

 じっと見つめる狼の目に抗えず私は、帝国にいる間伝えることのできなかった私の本当の名前を躊躇いながら口にする。

「リィル。いい名前だ」

 やっと呼べたと嬉しそうに微笑むセルヴィス様。
 リィルと私を呼ぶその声が耳朶に響き、私の視界を歪ませてシーツにポタリと雫が落ちる。

「どうした、リィル。どこか痛むか?」

「ちが、これは……」

 言葉にならず、ただ涙が頬を濡らし続ける。
 ずっと、嘘を重ねて生きてきた。
 偽物の私はそのまま嘘に埋もれて消えていくのだと思っていた。
 彼に本当の名前を呼ばれてみたい、なんて。
 絶対に叶わない、と。
 そう、思っていたのに。

「っ……ないっ……」

「リィル?」

「死にたくないっ。……本当は、ずっと生きていたい。叶うなら、あなたとっ」

 幕引きを許してくれないセルヴィス様に全部全部暴かれて。
 "絶対"なんてないのだと知った私はもう本音を隠すことはできない。

「セルヴィス様を愛しています」

 溢れて落ちるこの気持ちを止める術を持たない私に、

「やっと捕まえた。俺の正妃(リィル)

 満足気にそう言ったセルヴィス様は、そのまま優しく唇を重ねた。
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