赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 店から離れ、人気のない場所で立ち止まった私は、

「お返しします」

 必要でしょうとセルヴィス様にネックレスと強請った染め物のショールを渡す。

「ペンダントトップはただのガラス玉ですけど。細工は見事なものです。近年有名なティティのデザインですね」

 この細工の技法が開発されたのはせいぜい五〜六十年前。聖女様のいた時代とは合わない。よってこの宝飾品に聖女が浄化の祈りを込めることなどできるはずもない。
 つまり偽物なわけだが、セルヴィス様にとってはわざわざ購入するだけの価値がある、という事なのだろう。

「……なぜ、この染め物を選んだ?」

 私が差し出したそれらを無言で受け取ったセルヴィス様がそう尋ねる。

「植物染料で青色自体は珍しくないのですが、色味が独特なので。染料として使用された植物が取れる地域がある程度絞れるのではないかと」

 私は薬学研究の一環としてクローゼアで植物を扱っていた。その延長で植物染料もしていたのだが、使用する植物によって本当に色味は様々だった。
 が、このような色味の出る植物は取り扱った事がない。

「あとは、シルクの手触りですね」

 値段が安すぎるんですと私は気づいた点を上げる。
 クローゼアではシルクはすべて輸入品。
 だというのに、王族の衣装にはこれでもかというくらいシルクがよく使われていた。
 まぁ、理由は国王陛下がシルクの肌触りをいたく気に入っていたせいなんだけど。
 とにかくバカ高いそれを国内生産できないかとイザベラと散々調べたが、シルクを作るための材料がカイコというものだというところまでしか分からず、飼育方法はおろかシルクの製法も分からなかった。
 まぁその時の結論から言える事は。

「カイコの餌が違うのか種類が違うのか。いずれにしてもここまで上質な品がこの値段で流通するのはおかしいな、って」

 ってくらいなのだけど。
 それが実現できてしまうだけの技術のある国を絞り込むなんて、きっとセルヴィス様にとっては造作ないだろう。

「参考になりました?」

 求められた解になっているだろうか? とセルヴィス様を見上げれば、何やら考え込んでいる難しそうな表情が目に入る。
 悩んでいる姿すら絵になるのだから、本当に端整な顔立ちだなと思う。
 私の問いには答えず、空に手をかざし知らない言葉をつぶやくセルヴィス様。
 次の瞬間には彼の腕に鷲が止まっていた。

「これをオスカーに」

 短い命令のあとネックレスと染め物の入った袋を鷲に託す。受け取った鷲はあっという間に空の彼方に消えて行った。
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