赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「前から言っている。オスカーは俺の命綱だ、と」

 セルヴィスが何を今更、と言わんばかりの口調でオスカーに笑う。
 オスカーはセルヴィスが獣人の血を引いている事も、それ故に呪い子などと呼ばれ辺境に追いやられた経緯も知っている。
 知っていて、恨み事を言うより前にセルヴィスが自分が仕えるに値する主人であるか散々懐疑的な態度で突っかかられた。
 それが、セルヴィスには何より信頼に値する行為だった。
 疑う、ということは相手を知ろうとする行為だ。
 化け物と罵るでも、皇子だからと義務的に仕えるでもなく、オスカー自身で見極め選んでくれた。
 身分の差はあれど、対等な人間として扱われたその時間は、きっと今の関係を築くのに必要だった。

「俺がもし、道を踏み外したなら、オスカーが止めてくれるだろ」

 だから好き勝手できるんだ、と悪びれることなく微笑む美丈夫を前にオスカーは隠すことなくため息をつく。

「踏み外す前に軌道修正するに決まっているではありませんか。と、いうか人前でそっちの顔(・・・・・)を出さないでくださいよ」

 いい人過ぎて利用されるのが目に見えていますとオスカーはじとっと涼しげな紺碧の瞳を睨む。

「ははっ、普段はちゃんと冷徹で無慈悲な皇帝を演ってるだろ? 多少は許せ」

 どうせ、この場で生きている人間は俺とお前だけなのだからと誰もいなくなった路地裏に声が消える。

「なぁ、オスカー。俺が地獄に落ちる時は、お前も一緒に行ってくれるか?」

 少し寂しげな紺碧の瞳が静かにオスカーの萌黄色の瞳に問うた。

「何を今更。あなたはただ"ついてこい"とだけ言えばいいのです」

 そこには揺らがない自分への信頼が見て取れる。
 きっと、オスカーは自分が間違えば差し違えてでも止めてくれる。
 だから、大丈夫だと判断したセルヴィスは、

「なら、俺はもうしばらくイザベラを手元に置く事にする」

 と萌黄色の瞳に宣言する。

『大丈夫。すぐ、治るから』

 あの晩、苦しそうに胸を抑え力なく微笑んでいたイザベラの姿が脳裏に焼きついて離れない。

『私が欠陥品だってあなたのご主人様に報告しちゃう?』

 普段毅然としている姿からは想像できないほど弱々しく狼相手に黙っていてと頼んだイザベラ。
 彼女が自分にクローゼアを売りつけようとする理由は、そこにあるのかもしれないとセルヴィスは思う。
 が、実際のところは何も知らない。

『私が欲しいのは、髪飾りでも宝石でもありません』

 好きなモノも嫌いなモノも。

『"保証"。それだけです』

 どうしてあの時、急に泣きそうな顔をしていたのかも。
 セルヴィスは、何も知らない。
 そして"知りたい"と思ってしまった。
 国のために死なない、と言った彼女が。
 祖国を敗戦させた敵国の人間を案じ、感情論を置いておいて最善を弾き出せる彼女が。
 狼を恐れることなく無遠慮に手を伸ばし屈託なく笑いかける彼女が。
 小さなその身の内に抱え込んでいる"何か"を。
 この決断が国を危険に晒すならセルヴィスは責任を取らねばならない。

「だから、道を違えた俺を殺す時は躊躇うなよ」

 獣人は簡単には死なないんだからと、月を背にしたセルヴィスはそう言って静かに微笑んだ。
< 43 / 182 >

この作品をシェア

pagetop