赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 用意したのは、大きめの桶とたっぷりのお湯。そしてこの温室で育てられていたローズマリー。

「頃合いですね」

 ローズマリーの清々しい香りを嗅ぎながら私はそう言ってセルヴィス様の前に差し出す。

「ゆっくりお湯に手をつけてみてください」

 言われた通りにセルヴィス様は桶の中に手を沈める。

「いい香りだな」

「ローズマリーにはリラックス効果があるんです。特に気持ちが落ち込んだ時なんかはオススメですね。他にも集中力を高めたり、血行を促進してくれたり」

 と私はローズマリーの効能について簡単に説明する。

「詳しいな」

「お褒め頂き光栄です」

 ふふっと笑った私は、

「お疲れの時は手浴がオススメです。手軽に楽しめますし、時間もかかりませんし」

 手だけでも全身あったまりますよと私はセルヴィス様にそう言って勧める。

「ああ、これはいいな」

 気に入ってくれたようで良かったと思っていた私の方に手を差し出し、

「ベラ」

 と、私を呼ぶ。
 珍しい。二人でいる時に愛称で呼んだりしないのに。
 驚き戸惑う私の手を取るとセルヴィス様はそのまま湯に私の手を浸けた。

「早くしないと冷めるだろう」

 せっかくベラが用意したんだから、と当然のように私と共有しようとする。
 一人でゆっくり使えばいいのに、なんで? と疑問符を浮かべる私に、

「コレは落ち込んだ時にお勧めなんだろう」

 そんな言葉が返ってきた。
 もしかしなくても私を気遣ってくれたの? とようやく連れ出された意図と、落ち込んでいたらしい自分に気づく。
 それと同時に近くなった距離に戸惑い、そして心音がうるさくなる。

「……二人で手浴するには、狭くないですか?」

 だから離して、というより早くセルヴィス様は繋がっていない方の手を桶から出してしまった。

「これで問題ないな」

 重なった手はそのままで、離してくれそうにない。
 私は驚いて天色の目を瞬かせ、セルヴィス様の方を見る。
 口角を上げイタズラが成功したかのような顔には論破できるものならやってみろ、と書いてあった。
 いつぞやの夜とは真逆の立場に言葉が紡げなくなった私は、

「仰せの通りに」

 クスッと笑って白旗を上げた。
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