赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
タオルで手を拭き、片付けをした後、
「確かこの辺に」
戸棚を漁ったセルヴィス様が差し出したのは 古い植物図鑑。
「見ていただろ。カルディアで」
あの時セルヴィス様から沢山買い与えられた品の中には入っていなかった、私が欲しかった物。
遅延の魔法はすでに進行した症状には効かず、チョコレートで誤魔化すには私の状態は悪すぎた。
せめて、感覚を麻痺させる薬が作れたら。沢山の渡来品の植物と図鑑を片目に映しながら、あの時はそんな事を考えていた。
「私は、そんなに分かりやすい……ですか?」
悟られまいと随分気をつけているつもりなのに、こうもあっさり見破られては立つ瀬がない。
いつか私がイザベラの偽物なのだとバレるリスクを懸念して私はセルヴィス様に尋ねる。
「俺はイザベラほど隠すのが上手い人間に会ったことがない」
ふっ、と表情を崩したセルヴィス様は、
「合っていて良かった」
私の手に図鑑と鍵を乗せた。
見たことのない、特殊な形の鍵。おそらく魔道具の一種。
「一応今でも庭師が手入れをしているらしいが、それなりに手間みたいでな」
後宮に妃がいなくなってから、随分と人員を削ったからと言ったセルヴィス様は、
「管理が大変だからお前にやる。好きに使え」
いつもの口調でそう言った。
古めかしい植物図鑑も訪れる人のいない温室も、確かに今の帝国ではあまり価値がないのかもしれないけれど。
「……でも」
私は躊躇い、鍵と図鑑に視線を落とす。
正直、喉から手が出るほど欲しい。ざっと見ただけでも、ここには鎮痛剤や解熱剤などこれから必要になりそうな薬が作れそうな素材や器具が揃っている。
それでも素直に頷けないのは。
「私が、悪用するとはお考えにならないのですか?」
あらぬ疑いをかけられて、売国のチャンスを潰すかもしれないリスクを背負えないから。
苦痛はただ私が耐えればいい。でも、失敗を挽回するだけの時間はない。
断ろうと私が口を開くより早く、
「そもそもここには毒になりそうなものは置いていない」
庭師にも確認済みだと言ったセルヴィス様は、
「それに、イザベラは誰かを故意に傷つけるために毒を盛ったりできない」
まるでそれが真実であるかのように語る。
「……そんなの、分からないではありませんか。私だって、己に降りかかる火の粉は払います」
そう、私は嘘つきで利己的な人間だ。
現にセルヴィス様の使い魔である狼に毒だと知りながらチョコレートを食べさせようとした事だってある。
「できない」
だが、紺碧の瞳はそんな私をはっきりと否定する。
「イザベラがやるとするなら、それはきっと自分以外の誰かを守るためだ」
確信めいたその言葉を耳が拾い、私は大きく目を見開く。
「だから、コレはお前にやる。使うも使わないも好きにしろ」
トンっと私の持つ図鑑に置かれた大きな筋張った手に視線を落とす。
その手は返却不可とばかりに私にプレゼントを押し付け、動かない。
紺碧の瞳は私から逸らされることはなく、静かに私の言葉を待っている。
ああ、そうか。
後宮の厄介を片付けていた妃の話も。
温室に連れて来てくれたことも。
このプレゼントも全部。
私を信じてくれる、と言っているのだと私はようやくこのやり取りの結びを見つける。
「ありがとう、ございます」
ぎゅっと図鑑と鍵を抱きしめて、私は小さく礼を述べた。
「すごく。すごく、嬉しい……です」
大事にしますと言った私の頭上に軽く手が置かれ、そっと髪を撫でられる。
人前で寵妃として見せつける演技の時とはまるで違う手つき。
「そろそろ戻るか」
差し出されたセルヴィス様の手からはふわりとローズマリーの爽やかな匂いがした。
「確かこの辺に」
戸棚を漁ったセルヴィス様が差し出したのは 古い植物図鑑。
「見ていただろ。カルディアで」
あの時セルヴィス様から沢山買い与えられた品の中には入っていなかった、私が欲しかった物。
遅延の魔法はすでに進行した症状には効かず、チョコレートで誤魔化すには私の状態は悪すぎた。
せめて、感覚を麻痺させる薬が作れたら。沢山の渡来品の植物と図鑑を片目に映しながら、あの時はそんな事を考えていた。
「私は、そんなに分かりやすい……ですか?」
悟られまいと随分気をつけているつもりなのに、こうもあっさり見破られては立つ瀬がない。
いつか私がイザベラの偽物なのだとバレるリスクを懸念して私はセルヴィス様に尋ねる。
「俺はイザベラほど隠すのが上手い人間に会ったことがない」
ふっ、と表情を崩したセルヴィス様は、
「合っていて良かった」
私の手に図鑑と鍵を乗せた。
見たことのない、特殊な形の鍵。おそらく魔道具の一種。
「一応今でも庭師が手入れをしているらしいが、それなりに手間みたいでな」
後宮に妃がいなくなってから、随分と人員を削ったからと言ったセルヴィス様は、
「管理が大変だからお前にやる。好きに使え」
いつもの口調でそう言った。
古めかしい植物図鑑も訪れる人のいない温室も、確かに今の帝国ではあまり価値がないのかもしれないけれど。
「……でも」
私は躊躇い、鍵と図鑑に視線を落とす。
正直、喉から手が出るほど欲しい。ざっと見ただけでも、ここには鎮痛剤や解熱剤などこれから必要になりそうな薬が作れそうな素材や器具が揃っている。
それでも素直に頷けないのは。
「私が、悪用するとはお考えにならないのですか?」
あらぬ疑いをかけられて、売国のチャンスを潰すかもしれないリスクを背負えないから。
苦痛はただ私が耐えればいい。でも、失敗を挽回するだけの時間はない。
断ろうと私が口を開くより早く、
「そもそもここには毒になりそうなものは置いていない」
庭師にも確認済みだと言ったセルヴィス様は、
「それに、イザベラは誰かを故意に傷つけるために毒を盛ったりできない」
まるでそれが真実であるかのように語る。
「……そんなの、分からないではありませんか。私だって、己に降りかかる火の粉は払います」
そう、私は嘘つきで利己的な人間だ。
現にセルヴィス様の使い魔である狼に毒だと知りながらチョコレートを食べさせようとした事だってある。
「できない」
だが、紺碧の瞳はそんな私をはっきりと否定する。
「イザベラがやるとするなら、それはきっと自分以外の誰かを守るためだ」
確信めいたその言葉を耳が拾い、私は大きく目を見開く。
「だから、コレはお前にやる。使うも使わないも好きにしろ」
トンっと私の持つ図鑑に置かれた大きな筋張った手に視線を落とす。
その手は返却不可とばかりに私にプレゼントを押し付け、動かない。
紺碧の瞳は私から逸らされることはなく、静かに私の言葉を待っている。
ああ、そうか。
後宮の厄介を片付けていた妃の話も。
温室に連れて来てくれたことも。
このプレゼントも全部。
私を信じてくれる、と言っているのだと私はようやくこのやり取りの結びを見つける。
「ありがとう、ございます」
ぎゅっと図鑑と鍵を抱きしめて、私は小さく礼を述べた。
「すごく。すごく、嬉しい……です」
大事にしますと言った私の頭上に軽く手が置かれ、そっと髪を撫でられる。
人前で寵妃として見せつける演技の時とはまるで違う手つき。
「そろそろ戻るか」
差し出されたセルヴィス様の手からはふわりとローズマリーの爽やかな匂いがした。