赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 国、とは生き物だ。どれだけ古く高貴な血筋を語ろうが、所詮弱肉強食。愚王が頂点にいる以上、クローゼアは近いうちにどこかの誰かに喰い荒らされるのだろうと思っていた。
 だが、現実としてそうはならなかった。一時は低迷し、確かに多くの悪意が向けられかけたクローゼアは今も国として機能し、その体を成している。

「誰もが無理だと思った国の立て直し。それを成し得ているのが"暴君王女"の采配によるものなのだとしたら、これほど面白いことはないだろう」

 暴君王女が王の隣に立ち、公の場に現れたのは4年前。
 それはクローゼアが持ち直し始めた時期と一致する。

「……さすがに買い被りすぎではありませんか?」

 セルヴィスの推察にオスカーは首を振る。大方、優秀な家臣に恵まれているのだろう。でなければ、そんな貴重な姫を人質として元敵国の側妃に差し出すとは考えにくい。
 イザベラは4年前から幾度となく公式の場に姿を現しており、多くの人間に視認されている。柔らかく温かみのある蜂蜜色の髪にクローゼア王家の人間である証とも言える天色の瞳。血統を重んじるクローゼアに置いて瞳の色は代えが利くものではない以上、今この国にいる彼女は間違いなくイザベラ本人だ。

「まぁ、イザベラが俺の妃として拘束されている以上、クローゼア側は帝国に手出しはできない。事の真意は自ずと分かるはずだ」

 イザベラの才がどの程度なのかも含めて、とセルヴィスは楽しげにオスカーに告げた。

「……楽しそうですね、セルヴィス様」

 またこのヒトは、と主人の悪癖に頭を抱えるオスカー。

「ああ、楽しいな。まさか放置していた姫が後宮で賭博を始めるだなんて思わないじゃないか」

 そう言ってセルヴィスはダイスを手に取り指先で弄ぶ。
 婚姻を結んで2週間。儀礼的に初夜を迎えるところを後宮に渡らず、あえてイザベラを放置して様子を見ていた。
 それは暴君王女と名高い彼女に自身の立場を分からせるためでもあったし、国内の上位貴族達の溜飲を下げさせるためでもあった。
 イザベラはあのクローゼアの第一王女だ。このような不当な扱いを受けるなんて、と怒り狂ったイザベラが早々に問題を起こすと誰もが思っていた。
 が、その予想に反しイザベラは常に冷静だった。
 皇帝が訪れない事に文句を言う事はなく、多少の嫌がらせなら騒ぎ立てず、ただ静かに後宮の中に居続けた。
 痺れを切らせたイザベラが理不尽な要求をいつ突きつけてくるか、と身構えていた使用人達に彼女が出した要求は一つだけ。

『ダイスをもらえるかしら?』

 そしてダイスを手にした彼女は催しを開催する事を宣言する。

『暇ね。少し遊びましょうか?』

 そんな掛け声とともに。

「ダイスを使った見た事も聞いた事もないゲーム。招待状はなく、開催通知は侍女を通した口コミのみ。開催時身分を笠に場を荒らさないことを条件に、誰にでも門戸を開く代わりに気になるならお前が来いというスタンス。噂に違わぬ跳ねっ返りじゃないか」

 心底可笑しそうにセルヴィスは喉を鳴らす。だが、その紺碧の眼は全く笑っておらずまるで飢えた狼のようだとオスカーは思う。

「陛下、満月の夜でもないのに遠吠えはやめてくださいね。初めて(・・・)妃を迎えたばかりの後宮に変な噂が立っては、今後正妃を迎える際に支障を来しますので」

 呆れたような口調でため息をつくオスカーに、

「正妃、ねぇ」

 そんなモノを迎える気のないセルヴィスはつまらなそうにつぶやく。
 早々に退くのだからいらない、などと言えばまたいらぬ小言を聞く羽目になるので、

「無駄に吠えた覚えもないな。まぁ、爪で引っ掻いたり甘噛みぐらいはしたかもしれないが」

 今後娶る妃については一切言及せず、セルヴィスは適当にはぐらかす。

「あのですねぇ、セルヴィス様。冗談抜きでクローゼアの姫に見られることだけは絶対に避けてくださいよ?」

 止めても行くのだろうな、と半ばあきらめ気味にオスカーはセルヴィスに忠告する。
 が、

「仮に見られたところで、どうせ俺だとバレることはないさ。それに、それこそクローゼアの好きな血筋、という奴だろう」

 そう言って気にも留めないセルヴィスは、

「さて、どうやって駆け引きするか(姫を愛でようか)?」

 紺碧の瞳を細めて楽しげに笑った。
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