赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
人払いした政務室で力なく机に伏せっていたセルヴィスを見ながら、第一秘書官であるオスカーはふむと頷き状況を整理する。
朝にはこれでもかというほど積み上がっていた仕事はほぼ全部片付いていて。
急ぎではない仕事まで前倒し、できるものは全て処理済み。
過重労働気味のセルヴィスにしては珍しく暇を持て余しているというのに、彼は机から動こうとしない。
普段なら勝手に視察と称して宮廷外に出かけたり、身体が鈍ると剣を振り回して鍛錬したりするセルヴィスが、だ。
「……イザベラ妃」
ぽそっとオスカーがつぶやいた声に反応するかのようにセルヴィスの肩がわずかにピクリと動く。
「最近、こちらに来られませんね」
元々イザベラはセルヴィスが呼ばなければ後宮から出て来られない。
彼女は自分の立場をよく理解しているようで、暴君王女としての振る舞いを求められない限り、少なくとも表面上は大人しくしている。
寵妃を演じつつ、帝国の臣民に分からないように秘密裏に動くのも上手く、薬学やそれに付随する知識でさりげなく助け船を出してくれていた彼女。
勿論、彼女が慈善事業としてそれらを提供してくれているわけではないことは承知している。
彼女が手の内を明かし自分の能力の高さと利用価値を示すのは、全て母国であるクローゼアのため。
だとしても、彼女以上にセルヴィスに相応しいパートナーはいないのではないかとオスカーは最近の様子を見てそんな風に思っていた。
売国を目論み単身で乗り込んで来るほど母国を愛する彼女は、クローゼアという国全てを人質に取られている以上、おそらくセルヴィスを裏切らない。
その上、セルヴィスが獣人の血を引いていると知っても態度は変わらず、セルヴィスをひとりの人として尊重するし、狼の姿も怖がらない。
何より、セルヴィス自身が彼女のことを気に入っている。
そんな条件を満たす相手など、今まで一人もいなかったし、イザベラを逃したらこの先見つからないのではないか? と思う。
というわけで、今後の帝国のためにもオスカー的にはこの二人が上手くまとまってくれるのが望ましいところなのだが、どうにもセルヴィスの様子がおかしい。
「セルヴィス様、イザベラ妃と何かありました?」
拗れると面倒なことになりかねないし、何より時間の無駄なのでオスカーはストレートにセルヴィスに尋ねる。
イザベラの名前に反応したものの顔をあげないセルヴィスにため息をついたオスカーは、
「彼女には、ハリス公国との会談後の宴に妃として出て頂く予定でしたが……仕方ないですね、セルヴィス様が会いづらいなら今回は私の方で打ち合わせをしておきます」
そう言ってスケジュール表をセルヴィスの机に置く。
「ですが、覚えておいてください。うちに穀潰しを養う余裕はない」
オスカーの言葉に顔を上げたセルヴィスの瞳は冷え冷えとしており、戦地にいた時の彼を連想させる。
全てを喰い千切りそうな、圧倒的強者。
それに怯む事なく、オスカーは言葉を紡ぐ。
「あなたとイザベラ妃の婚姻は、我が国が圧倒的に有利な状況で結ばれた"政略結婚"です」
もっと平たくいうなら、彼女はただの人質でしかない。
今後クローゼアのようにこの帝国を侮り不要な戦が起きないための見せしめ。
「彼女は王族らしく、自分に科された責を良く理解し、それを踏まえた上で自分に取れる最善手を選んでいます」
だから、彼女はどんな処遇に身を置くことになっても、受け入れてくれるでしょう、とにこやかな笑顔でオスカーはえげつないことをいう。
「……それは、脅しのつもりか?」
「いいえ、事実を述べているのです。私はイザベラ妃やクローゼアより、国やセルヴィス様を優先します。つまり、あなたにとって彼女の存在が有害であるのなら、彼女を排除します。たとえ、彼女に非がなかったとしても」
私にそれをさせるおつもりですか、と常盤色の瞳がセルヴィスに問う。
オスカーが言っていることは正しい。
そして、彼はこの国を良い方向に向けるためなら自らの手を汚すことも厭わない、という事もセルヴィスは長い付き合いで知っている。
ずっと、そうして自分の事を諌めてきてくれた事も。
朝にはこれでもかというほど積み上がっていた仕事はほぼ全部片付いていて。
急ぎではない仕事まで前倒し、できるものは全て処理済み。
過重労働気味のセルヴィスにしては珍しく暇を持て余しているというのに、彼は机から動こうとしない。
普段なら勝手に視察と称して宮廷外に出かけたり、身体が鈍ると剣を振り回して鍛錬したりするセルヴィスが、だ。
「……イザベラ妃」
ぽそっとオスカーがつぶやいた声に反応するかのようにセルヴィスの肩がわずかにピクリと動く。
「最近、こちらに来られませんね」
元々イザベラはセルヴィスが呼ばなければ後宮から出て来られない。
彼女は自分の立場をよく理解しているようで、暴君王女としての振る舞いを求められない限り、少なくとも表面上は大人しくしている。
寵妃を演じつつ、帝国の臣民に分からないように秘密裏に動くのも上手く、薬学やそれに付随する知識でさりげなく助け船を出してくれていた彼女。
勿論、彼女が慈善事業としてそれらを提供してくれているわけではないことは承知している。
彼女が手の内を明かし自分の能力の高さと利用価値を示すのは、全て母国であるクローゼアのため。
だとしても、彼女以上にセルヴィスに相応しいパートナーはいないのではないかとオスカーは最近の様子を見てそんな風に思っていた。
売国を目論み単身で乗り込んで来るほど母国を愛する彼女は、クローゼアという国全てを人質に取られている以上、おそらくセルヴィスを裏切らない。
その上、セルヴィスが獣人の血を引いていると知っても態度は変わらず、セルヴィスをひとりの人として尊重するし、狼の姿も怖がらない。
何より、セルヴィス自身が彼女のことを気に入っている。
そんな条件を満たす相手など、今まで一人もいなかったし、イザベラを逃したらこの先見つからないのではないか? と思う。
というわけで、今後の帝国のためにもオスカー的にはこの二人が上手くまとまってくれるのが望ましいところなのだが、どうにもセルヴィスの様子がおかしい。
「セルヴィス様、イザベラ妃と何かありました?」
拗れると面倒なことになりかねないし、何より時間の無駄なのでオスカーはストレートにセルヴィスに尋ねる。
イザベラの名前に反応したものの顔をあげないセルヴィスにため息をついたオスカーは、
「彼女には、ハリス公国との会談後の宴に妃として出て頂く予定でしたが……仕方ないですね、セルヴィス様が会いづらいなら今回は私の方で打ち合わせをしておきます」
そう言ってスケジュール表をセルヴィスの机に置く。
「ですが、覚えておいてください。うちに穀潰しを養う余裕はない」
オスカーの言葉に顔を上げたセルヴィスの瞳は冷え冷えとしており、戦地にいた時の彼を連想させる。
全てを喰い千切りそうな、圧倒的強者。
それに怯む事なく、オスカーは言葉を紡ぐ。
「あなたとイザベラ妃の婚姻は、我が国が圧倒的に有利な状況で結ばれた"政略結婚"です」
もっと平たくいうなら、彼女はただの人質でしかない。
今後クローゼアのようにこの帝国を侮り不要な戦が起きないための見せしめ。
「彼女は王族らしく、自分に科された責を良く理解し、それを踏まえた上で自分に取れる最善手を選んでいます」
だから、彼女はどんな処遇に身を置くことになっても、受け入れてくれるでしょう、とにこやかな笑顔でオスカーはえげつないことをいう。
「……それは、脅しのつもりか?」
「いいえ、事実を述べているのです。私はイザベラ妃やクローゼアより、国やセルヴィス様を優先します。つまり、あなたにとって彼女の存在が有害であるのなら、彼女を排除します。たとえ、彼女に非がなかったとしても」
私にそれをさせるおつもりですか、と常盤色の瞳がセルヴィスに問う。
オスカーが言っていることは正しい。
そして、彼はこの国を良い方向に向けるためなら自らの手を汚すことも厭わない、という事もセルヴィスは長い付き合いで知っている。
ずっと、そうして自分の事を諌めてきてくれた事も。