根暗な貴方は私の光
 何故、紬と友里恵が困ったように眉を下げて笑うのか蕗に分かるはずもない。まだ子供だというのに遠慮ばかりしている蕗が二人には少々異質に見えたのだ。
 教育係である友里恵に蕗を預け、紬は台所にいる鏡子の元へ向かう。
 
「ねえ、鏡子」
「んー?」

 菓子の盛りつけをしていた鏡子の傍に寄り、周りに聞こえないよう小さな声で尋ねる。

「あれ嘘でしょ」

 団子を並べる鏡子の手が止まった。皿に落としていた目が大きく見開かれ、今にも零れ落ちそうである。
 紬は驚きに目を見開く鏡子から友里恵と共に接客をする蕗へと視線を移した。
 友里恵の腰くらいまでしかない小さな身長と骨が浮き出た身体を精一杯伸ばし、友里恵のマネをする姿は何とも健気である。
 何も知らない者が見ればそう思ったことだろう。

「蕗ちゃんが貴方の妹だって話」

 蕗が柳凪で共に働くことになった日、鏡子は蕗のことを自身の妹であると言った。祖母の元で暮らしていたがその祖母が亡くなったため、姉である鏡子が面倒を見ることになったという“設定”だったらしい。
 しかし第一に、二人の顔が全くと言っていいほど似ていなかった。直毛の鏡子、癖っ毛の蕗。長身の鏡子、子供とはいえ小柄な蕗。何処を取ってみても二人は似ていなかった。

『店主の妹に当たります』

 客と話す友里恵の声が聞こえる。蕗の傍で屈んで彼女のことを常連客の老夫婦に紹介しているところだった。
 恐らく友里恵も気づいている。自身で蕗を店主の妹だと言いながら、本当はそうでないと。

「なんだ、気づいていたの」
「いやいや、誰だってあんな分かりやすい嘘気付くに決まってるって」
「結構上手く誤魔化せたと思っていたけど」
「それならちゃんと本人と打ち合わせするべきだったんじゃない? 蕗ちゃん、貴方が突拍子もないことを言うから戸惑っていたわよ」

 大人の余裕を持っているものだと思っていたが、鏡子にも茶目っ気はあったらしい。
 少しだけ鏡子が自分に近い存在のように見えて、紬の心の奥にあった蟠りが解けた気がした。
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