根暗な貴方は私の光
 仁武との再会を果たした蕗は見違えるほどに明るく笑うようになった。
 初めて蕗を見た時には想像もできなかった笑顔で彼女は接客をする。常連の客からも「見違えた」と言われるほどだ。
 自分の感情を表に出し、笑う時は笑い嫌なことは嫌だと言う。蕗はよっぽど人間らしくなっていた。

 しかし、そんな彼女の笑顔も客がいなければほとんど見ることができない。
 町でも有名な甘味処だったはずの柳凪は、今では客がいない時間の方が長いほどに静かであった。

(退屈ねぇ……)

 今日も変わらず店内には数人の客がいるだけでほとんどが空席であった。従業員でありながら客席に座るわけにはいかず一応入口付近に立ってはいるが、何もせず突っ立っているというのは存外辛い。
 早く時間が過ぎないかと思っていると。

「二人、入れますか?」

 入口付近に立って欠伸をしていた紬の耳に仁武の声が届いた。見れば、入口の扉を少し開けて仁武が店内を覗き込んでいる。
 扉を開けて彼を店内に招き入れると、遅れてもう一人の青年が店内に入ってきた。
 見たことのない青年であるが、仁武の知り合いだろうか。

「いらっしゃい仁武くん。そこの席へどうぞ」

 紬に軽く会釈をした仁武が背後にいる青年に目配せをし、二人は向かい合うようにして席に着いた。
 台所に向かうと蕗とすれ違う。仁武の接客はやはり自分がしたいのだろう、横目で見えた彼女の表情は明るく晴れ晴れとしていた。
 仕事が無くなった紬は台所にいる友里恵と鏡子の傍に寄る。
 もう十年近く接客をしてきた蕗であるから心配はないが、やはり長年妹のように可愛がってきた身として心配は募った。
 それに今日は見慣れない青年も相席している。不健康なまでに白い肌、隈が浮かんだ目元、痩せ細った身体。体格の良い仁武と正反対の青年は何処か浮いた存在なのである。

「大丈夫かしら……」
「何、紬。心配なの?」
「すっかりお姉さんねぇ」

 何気なく呟いた言葉に鏡子と友里恵がすかさず揶揄いを入れてくる。
 そんなつもりで言ったわけではないのにと弁明しようとした時、聞き捨てならない会話が聞こえてきた。

「俺は知らなくていい、だって? 違うな。俺は知らないといけない。疫病神の噂の根源と、お前ら二人の関係。全部、俺には知る権利がある」

 疫病神。その言葉が紬の脳に焼き付いていつまでも離れなかった。
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