根暗な貴方は私の光
 信じたかった。信じてやりたかった。
 この柳凪という甘味処で働く仲間として、同じ恩人に救われた者同士として信じたかった。

 彼女は人殺しではないと。

 決してあの噂が本物であるとは限らない。むしろ誰かのいたずらで広まったと考えるほうが正しいだろう。
 それでも一度生まれた不安が取り除かれることはない。
 紬には目の前の少女が疫病神に見えていた。疫病や厄災をもたらす悪神にしか見えなかった。

「ごめんなさい」

 一体誰の言葉だったのだろう。紬のものであったようにも思うし、蕗のものであったようにも思う。
 ただ静かな店内に誰かの懺悔のような謝罪が空気に解けて消えた。
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