根暗な貴方は私の光
愛妹の誕生日が四日後に迫ったある日。
「止められないんですか、芝さんが特攻隊に入ること。今からでもまだ間に合うんじゃ……」
芝が特攻隊に入隊した知らせを受けた蕗は、あの日からずっとこんな調子だった。
無理もないとは到底言える状況ではない。蕗の発言は日ノ本の民である理念に背き、そして芝の決意を踏み躙る発言なのだ。
だから皆は蕗に対して厳しい物言いをする。蕗に対して常に優しさを向けていた仁武ですら、優しさなど無くありのままの現実を知らしめていた。
「でも、話をするくらいなら」
「そんな甘い幻想は今ここで捨てなさい」
友里恵の鉄の如く怒りを含んだ声が蕗の言葉を遮る。思わず隣りに座っていた紬が身体を強張らせるほどだ。
恐る恐る隣へと視線を向ける。紬の隣に座っている友里恵は蕗を見つめていた。
血走った怒りの滲む鋭い目である。
「現実は残酷なものよ。私だって止められたらどれほど良かったことか。でもね、それを割り切ることができないと、この世界では生きていけないの」
まるで自分のことのように語るなと紬は口をついて言いそうになった。
芝が特攻隊に志願したと言ったあの日、友里恵の様子がおかしかったことは今も覚えている。恐らく紬以外は気づいていない。
今の友里恵の言葉には端々に深い後悔が見え、何かに対する懺悔を感じる。先日の彼女のおかしな様子を知っている紬だからこそ、今の彼女の身を案じた。
「ねえ、ずっと気になっていたんだけど。あんた、彼氏さんはどうしたの?」
友里恵には離れで暮らしているという彼氏がいたはずだ。時折、店の休憩時間などで会いに行く様子を見たことがある。
随分と仲睦まじげだった。軒先で楽しげに話す二人を知っている紬は、聞かずにはいられなかった。
すると蕗に向けていた視線を問うた紬へと向けた。光のない目で見つめられ身体が強張る。
まるで今目の前にいるのは別人の誰かのようだった。
「現実は残酷なものよ。私だって止められたらどれほど良かったことか。でもね、それを割り切ることができないと、この世界では生きていけないの」
「だからって、二度と会えなくなっちゃうんですよ」
無知で純粋な蕗は自身の言葉がどれだけ友里恵を挑発しているのか知らない。
蕗が何かを話すたびに紬には不安が募った。これ以上何も言わないでほしいとさえ思った。
嫌な予感がする。悲劇が起こる気がした。
「止められないんですか、芝さんが特攻隊に入ること。今からでもまだ間に合うんじゃ……」
芝が特攻隊に入隊した知らせを受けた蕗は、あの日からずっとこんな調子だった。
無理もないとは到底言える状況ではない。蕗の発言は日ノ本の民である理念に背き、そして芝の決意を踏み躙る発言なのだ。
だから皆は蕗に対して厳しい物言いをする。蕗に対して常に優しさを向けていた仁武ですら、優しさなど無くありのままの現実を知らしめていた。
「でも、話をするくらいなら」
「そんな甘い幻想は今ここで捨てなさい」
友里恵の鉄の如く怒りを含んだ声が蕗の言葉を遮る。思わず隣りに座っていた紬が身体を強張らせるほどだ。
恐る恐る隣へと視線を向ける。紬の隣に座っている友里恵は蕗を見つめていた。
血走った怒りの滲む鋭い目である。
「現実は残酷なものよ。私だって止められたらどれほど良かったことか。でもね、それを割り切ることができないと、この世界では生きていけないの」
まるで自分のことのように語るなと紬は口をついて言いそうになった。
芝が特攻隊に志願したと言ったあの日、友里恵の様子がおかしかったことは今も覚えている。恐らく紬以外は気づいていない。
今の友里恵の言葉には端々に深い後悔が見え、何かに対する懺悔を感じる。先日の彼女のおかしな様子を知っている紬だからこそ、今の彼女の身を案じた。
「ねえ、ずっと気になっていたんだけど。あんた、彼氏さんはどうしたの?」
友里恵には離れで暮らしているという彼氏がいたはずだ。時折、店の休憩時間などで会いに行く様子を見たことがある。
随分と仲睦まじげだった。軒先で楽しげに話す二人を知っている紬は、聞かずにはいられなかった。
すると蕗に向けていた視線を問うた紬へと向けた。光のない目で見つめられ身体が強張る。
まるで今目の前にいるのは別人の誰かのようだった。
「現実は残酷なものよ。私だって止められたらどれほど良かったことか。でもね、それを割り切ることができないと、この世界では生きていけないの」
「だからって、二度と会えなくなっちゃうんですよ」
無知で純粋な蕗は自身の言葉がどれだけ友里恵を挑発しているのか知らない。
蕗が何かを話すたびに紬には不安が募った。これ以上何も言わないでほしいとさえ思った。
嫌な予感がする。悲劇が起こる気がした。