根暗な貴方は私の光

「友里恵は死のうとしたのかしら」

 静寂が流れる店内で鏡子の嘆きが聞こえた。机の木目を見つめて考えることを拒んでいた脳に鏡子の言葉が文字起こしになって横切っていく。
 動かすことすら憚られた視線を明後日の方向を見つめていた鏡子に向けた。

「考えてみれば当たり前よね。大好きな人が特攻隊員になって帰らぬ人になってしまったんだもの。受け入れられるはずがないのに……。私は、ずっとあの子を苦しませていたのねえ…………」

 泣くこともなく、ただひたすらに懺悔するような物言いで呟いていた。紬にはそんな鏡子が哀れに見え、そしてどうしようもない後悔に苛まれる。
 江波方に独り店に残された時のように端に座り込んだ紬は、ぼんやりと空虚を眺めた。

「思い返してみれば、友里恵って何だかんだ私達の輪に入ってこようとしなかった。いつも店の奥から見ているだけで……。そう、そういうことだったのね」

 愛する者を戦争で亡くしたのは紬も同じだったのだ、もっと早く気づいてやるべきだった。
 今になってようやく気づいてやっても何もできないというのに。行き場のない後悔が浮かんでは消える。
 皆は何処か上の空で何をする気にもならないらしい。蕗と仁武が何やら二人で何処かに出向いていったが、この場にそれを拒む者はいない。

「ねえ、江波方さん」
「……何でしょうか?」

 今、柳凪の中にいるのは鏡子と紬、江波方である。上の空の様子の鏡子にはしばらく話しかけても何も返してはくれないだろう。
 座り込んでいた床から立ち上がり江波方の隣に座り直す。江波方は紬の一連の動きを固唾を飲んで見ていた。
 大方、何を問われるのか察したのかもしれない。

「まず、私の考えを聞いて下さい。以前、貴方は弟を見つけたと言っていましたね。そこで考えたのですが、もしかして、その弟さんが」

 言葉が詰まった。誰かに止められたからでもその先の言葉が見つからなくなったからでもない。
 目の前で話を聞いていた江波方の目に一瞬の迷いが見えたからだ。

「……もっと早くあいつを止めていれば」

 後悔の滲む横顔を見ているとそれ以上何も問えなくなる。伏せられた瞳から彼の感情を読み取ることはできず、ただ聞かなければよかったという後悔だけが紬の胸の奥に渦巻いた。

 
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