根暗な貴方は私の光
適当に近くにあった椅子を並べると、二人は向かい合って座る。初めてこうして鏡子と二人きりの時間を過ごすかもしれない。
かつて独りで町を放浪していた紬を救ってくれたのは一人の女神であった。
赤い傘の下で笑う彼女は優しく手を差し伸べてくれた。あの時、彼女の手を取ったから紬は今ここにいる。
全ては偶然にして出会ったことによって動き出した時間であった。
「初めてね、こうして二人でいる時間」
目の前にいる命の恩人である女神を見つめて紬は呟く。
鏡子はそんな紬の呟きを聞いて笑みを浮かべた。何度も見て何度も救ってくれた笑顔、女神の笑顔が優しく見てくれていた。
「折角二人きりになれたから聞きたいんだけど」
「何、改まって」
紬はずっと気になっていた。以前、江波方と二人で使いに出された日のことである。
「あの時、どうして私に行かせたの? 貴方が行ってあげるべきじゃなかった?」
鏡子が紬達に向かわせたのは町外れにある屋敷だった。誰の屋敷なのかは聞かされていなかったため、紬はてっきり贔屓にしてもらっている客の家かと思ったりもしていたのだが。
その家主は一人の穏やかな風貌をした女性だった。
柳凪の人間であることを明かすと、屋敷から出てきた女性は随分と嬉しそうに表情を綻ばせていた。その時の紬と江波方は何が何だか分からず居た堪れなかったのである。
そして不本意ながらも屋敷に上がると、出された菓子はあろうことか柳凪の菓子であった。
どうしてあの女性が柳凪の菓子を得意げに出してきたのかは、その後の女性の発言で明かされる。
「貴方の実家だったんでしょう。私や江波方さんではなくて、娘である貴方が行ってあげるべきだったわよ」
「……そうねぇ、貴方の言う通りよ。でも、もう合わせる顔がなかった」
束ねて右側に流していた黒髪を撫でながら細められた目には悲しみが滲む。
真正面で彼女のその変化を見ていた紬は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
「あの小物は全部子供の頃に母がくれたものだったの。だから、本人に返したに過ぎない」
「合わせる顔がなかったっていうのは?」
「貴方も聞いたんじゃない? 私はあの人に恨んでいると思われているのよ。父や母を恨む哀れな娘だって」
鏡子の言葉を聞いて江波方と向かった屋敷での女性の話が蘇る。
女性は決して娘を恨んでいるわけでも嫌っているわけでもなかった。ただ、何処かで元気に暮らしているのならそれでいいと、母親の愛情を初対面の紬達に隠さず見せていた。
かつて独りで町を放浪していた紬を救ってくれたのは一人の女神であった。
赤い傘の下で笑う彼女は優しく手を差し伸べてくれた。あの時、彼女の手を取ったから紬は今ここにいる。
全ては偶然にして出会ったことによって動き出した時間であった。
「初めてね、こうして二人でいる時間」
目の前にいる命の恩人である女神を見つめて紬は呟く。
鏡子はそんな紬の呟きを聞いて笑みを浮かべた。何度も見て何度も救ってくれた笑顔、女神の笑顔が優しく見てくれていた。
「折角二人きりになれたから聞きたいんだけど」
「何、改まって」
紬はずっと気になっていた。以前、江波方と二人で使いに出された日のことである。
「あの時、どうして私に行かせたの? 貴方が行ってあげるべきじゃなかった?」
鏡子が紬達に向かわせたのは町外れにある屋敷だった。誰の屋敷なのかは聞かされていなかったため、紬はてっきり贔屓にしてもらっている客の家かと思ったりもしていたのだが。
その家主は一人の穏やかな風貌をした女性だった。
柳凪の人間であることを明かすと、屋敷から出てきた女性は随分と嬉しそうに表情を綻ばせていた。その時の紬と江波方は何が何だか分からず居た堪れなかったのである。
そして不本意ながらも屋敷に上がると、出された菓子はあろうことか柳凪の菓子であった。
どうしてあの女性が柳凪の菓子を得意げに出してきたのかは、その後の女性の発言で明かされる。
「貴方の実家だったんでしょう。私や江波方さんではなくて、娘である貴方が行ってあげるべきだったわよ」
「……そうねぇ、貴方の言う通りよ。でも、もう合わせる顔がなかった」
束ねて右側に流していた黒髪を撫でながら細められた目には悲しみが滲む。
真正面で彼女のその変化を見ていた紬は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
「あの小物は全部子供の頃に母がくれたものだったの。だから、本人に返したに過ぎない」
「合わせる顔がなかったっていうのは?」
「貴方も聞いたんじゃない? 私はあの人に恨んでいると思われているのよ。父や母を恨む哀れな娘だって」
鏡子の言葉を聞いて江波方と向かった屋敷での女性の話が蘇る。
女性は決して娘を恨んでいるわけでも嫌っているわけでもなかった。ただ、何処かで元気に暮らしているのならそれでいいと、母親の愛情を初対面の紬達に隠さず見せていた。