根暗な貴方は私の光
 一足先にその場を駆け出した仁武達の後ろを手を繋いだ江波方と紬は追いかける。
 根暗でいつも猫背、常に頼りないと思っていた江波方の背中がやけに大きく見えたのは気の所為ではないだろう。
 炎が遠い場所や瓦礫の少ない道を選んで安全を最優先する江波方の不器用な優しさに後を追う紬の頬が綻ぶ。口でこそ言わないが、江波方は不器用でありながら優しいことを紬は知っていた。
 目指す学校があるのは、これまでいた町よりも少しばかり栄えている。崩れた建物の瓦礫が積み上がり征く手を阻むが、通りを外れると開けた道が続いた。
 丘と間違えそうになるほどの小さな山を超えると、そこには目指す町がある。
 すると、学校が見えるかと思われたところで先を走っていた仁武が足を止めた。
 江波方に手を引かれたまま彼の隣に向かうと、紬は目の前に広がる光景に息を呑んだ。

「ひどい……」

 紬が口元を手で覆い呟く。同じく山の先に広がる景色を見た江波方は、ぐっと奥歯で毒虫を噛み潰したかのごとく表情を歪めた。
 見れば、赤黒く変色した死体があちらこちらに転がっている。何処を見ても転がっているのは、死体、死体、死体。
 視線の先には、焼け野原の中に骨組みだけになった学校がぽつんと建っていた。
 学校の傍を流れる川に向かっていく人々が渦を成す。そこへ意識を向ければ、人々の悲鳴や叫び声、鳴き声が聞こえた。

「学校の中に人がいる……」
「行こう!」

 坂を下り学校への道を走ると、微かに人の声が聞こえた。硝子がズレて骨組みだけになった窓の向こうには、忙しなく走り回る女学生が見える。
 仁武の背から蕗が降りたことを確認すると、四人は怪我人で溢れ返る学校の中へと歩みを進める。人の話し声と呻き声があちらこちらから聞こえてきた。
 焦げた廊下を進みながら紬は居た堪れない心持ちになった。江波方が手を繋いだまま心配そうに顔を覗き込むが、答えることすら億劫であった。

「和加代!」
「蕗ちゃん! 無事だったのね!」

 聞き覚えのある名前が聞こえて顔を上げると、仁武達のいる先で女学生と蕗が互いの無事を喜び合っていた。
 けれど、紬は素直に喜ぶことができない。この空間にいることすら彼女にとっては屈辱的であったのだ。
 紬がかつて着ていたワンピース型の黒い制服を着た女学生が紬の横を通り過ぎる。この場所はかつて紬が通っていた女学校だったのだ。
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