根暗な貴方は私の光

「皆、嘘つきねえ。辛くないように振る舞っていても、辛いものは辛いのよ。でも、一番不安なのは彼らの方よね。本当、何が正解だったのかしら」

 窓の外を見ても人影一つ無い闇が広がっている。蕗が帰ってくる様子はなく、彼女のことだから大丈夫だとは思うがそれでも心配なものは心配である。
 けれど、今は泣きじゃくりながら縋り付いて来る和加代の方が心配であった。今、彼女を置いて外に出ることはできない。
 和加代はかつて自分が通っていた女学校の生徒なのである。紬にとって和加代は後輩同然だったのだ。

「ねえ、鏡子。何が正解だったと思う? 私はどうすれば彼らを、彼女達を救えた? 友里恵、愛する人に気持ちを伝えるにはどうすればよかったの? 直接言いうなんてこと私にはできなかった。彼が鈍感じゃなかったら今ごろ私は嫌われ者よ」

 いるはずのない鏡子と友里恵が傍にいるような気がして、無意識の内にそう口にしていた。もう何処にもいない彼女達は見守ってくれているのだろうか。もしそうなら何故助けてくれなかったのだろう。
 何故、彼らを見殺しにするのだろう。もしこの場に二人がいたなら、怒鳴りつけてでも彼らに会いに行くように言ったかもしれない。
けれど、そんな彼女達はいないし、その場から動き出す気力さえ残ってはいなかった。
 愚かなものだと皮肉交じりに笑う。小さな女の子の髪を撫でながら、自分にもこうして誰かのために泣いていた時があったのかもしれないと考えた。
 だが、もうほとんど思い出せない。あったはずの記憶は自分で閉ざしてしまったのだ。
 彼に対する想いは直接口にできないまま。曖昧な状態で終りを迎える。
 蕗が本当の気持ちを伝えられたことを信じて静かに目を閉じた。
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