アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-02:警戒心、どこいった!?

 変わったのは身体つきだけじゃない。

 すっかり変わってしまった自分の顔を、鏡越しになでてみる。

「ほ、ホントに私の顔だ……」

 その顔は千年どころじゃない、三千年に一度の美少女と言われても納得のいくビジュアルになっていた。

 そうなると、他も試さないわけにはいかなかった。

 私は【ルックス】を0に下げ、【頭の良さ】に100を割り当てる。その途端、ブカブカになっていたジャージのウエストが、ピタッとお腹に張りついた。

 まだ手を付けていなかった、数学の宿題。私が苦手としている、連立方程式だ——

 公式はなんとか頭に叩き込んだが、応用問題が全く解けない。そんな私が、連立方程式の一番最初のページから読み直してみる。

 ふっ、不思議っ……!!

 ただ暗記するものとして見ていた公式が、なぜその形になっているのか、手に取るように理解が出来たからだ。こ……これならきっと、応用問題だって楽に解けるはず!!

 じゃ、次に試すのは【運動神経】!


 ——と思った瞬間、アバター★ミーの画面が切り替わってしまった。

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『アバター★ミー』の無料期間が終了しました。継続して利用される場合は、ご注意事項をよくご確認の上、本登録へとお進みください。

〘 ご注意事項 〙

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 む……無料期間短くない……!?

 って言うか、このアプリ有料だったらいくらなの……?

 わっ、私はだすよ、一月三千円までなら……! お小遣いがゼロになったとしても構わない……!!

 最初の警戒心はどこへやら、私は〘 ご注意事項 〙ボタンをタップしていた。

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『アバター★ミー』本登録のご確認
下記、問題が無ければ□に✓を入れ、本登録にお進みください。

□このアプリの存在は、誰にも知られてはいけません。

□ある条件を達成すると、このアプリは消去されます。
 ※ある条件を教えることは出来ません。

〘 本登録はこちら 〙

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 こ……これだけでいいの……? しかも、無料……!?

 にしても、ある条件って何……? 内容によっちゃ、明日条件を達成しちゃう可能性もあるってこと!?

 うーん、怖い! ある意味、これは怖すぎる!!

 しかし、三千年に一度の美少女を見てしまった私に、引き下がる選択肢は無かった。


***


 翌朝目が覚めると、真っ先にスマホを手に取り確認をした。アバター★ミーのアイコンは、スマホ画面の一番最後にちゃんとある。

「ふぅー……夢じゃなかったんだ……」

 私は寝る前、アバター★ミーの本登録を済ませ、使い方を念入りに考えた。それは下記の通り。

★その1★
メインは【ルックス】! 最終目標は80にまで上げること!

★その2★
とりあえず、【ルックス】は5から。ダイエットをしていると言って、徐々に上げていく作戦!

★その3★
アプリが消去される「ある条件を達成」を回避するため、運動でも試験でも絶対一番にはならない!
このアプリを使えば、一番になってしまうことはカンタン! きっとこれが、このアプリの罠に違いない!

 私はこの計画を思い返すと、ニヤニヤが止まらなくなった。

 だって、計画が完璧過ぎるんですもの!!


***


 昨日試せなかったこともあり、今日は【運動神経】に大きな数字を割り当てている。

【ルックス】5【運動神経】95【頭の良さ】0

 と、こんな具合だ。

 もちろん、このような数字を当て込んだのには理由がある。なぜなら、今日は体力測定の日だから!

 運動が苦手な私が【運動神経】に高い数字をあてると、どのようなことが起きるんだろう。

 フフフ。まさか、私が体力測定を楽しみにする日が来るなんて。昨日までの私なら、想像もしなかったことだ。


「おはよう、志帆。——ん? あなた、ちょっと痩せた?」

「わっ、分かる!? ——じ、実は、昨日からちょっと食事減らしてるの」

 そう答えると、お母さんは怪訝(けげん)な顔をした。そう言えば昨晩は、いつも通りご飯のお代わりをしてたっけ……そりゃ、そんな表情にもなるよね……

「まあ、ちゃんと健康的に見えるから心配はしないけど。——じゃ、これ食べ終えたら食洗機に入れておいてね。あと、戸締まり忘れちゃダメよ!」

 お母さんはそう言って、仕事へと出ていった。

 さあ、始まるよ——

 私と『アバター★ミー』の初めての1日が——
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