アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜
Scroll-03:遥か彼方へ!
「おはよう、琴音!」
玄関を出ると、いつものように琴音が家の前で待ってくれていた。私が遅れることはあっても、琴音が遅れたことはない。今日は体力測定ということもあり、琴音も体操服を着ている。
「おはよう——あれっ? 志帆痩せた……!?」
お母さん同様、琴音も同じことを聞いてきた。私自身はあまり変わってないと思っていたけど、他人から見ると違うようだ。明日、【ルックス】を10に上げるという計画は、考え直した方がいいのかもしれない。
「アハハ……今朝、お母さんにも同じこと言われたちゃった。実はね、ちょっとずつご飯の量、減らしてるんだ。——あ、そうだ! ついでと言っちゃなんだけど、琴音も一緒にダイエット始めてみない?」
そう言われた琴音は、「私が?」と言って肩をすくめた。
「んー……私はいいかな? 自分の体型、あんまり気にしてないし。——それより日記、先に渡しておくね。昨日は、めっちゃ気合入れて描いたから!」
琴音が笑顔で手渡してきたのは、私たちの交換日記。イラストを描くことが大好きな私たちは、その日の出来事などを絵で綴ることが多かった。しかも、琴音はめちゃくちゃ絵が上手い。その上、気合いを入れてくれた日記だなんて、今から楽しみで仕方がない。
空を見上げると、雲一つない快晴が広がっている。
そのせいか、少し傾斜のある通学路も、軽やかに上れている気がする。
いや……それはもしかして、95まで引き上げた、【運動神経】のせいなのかもしれない。
***
少し緊張しながら教室に入ったものの、「痩せた?」と誰かに聞かれることは無かった。
そりゃそうか……誰も私のことなんか、気にして見てないし。私はお弁当と交換日記を机に入れると、琴音と運動場に向かった。
「準備運動が終わったら、いきなりハンドボール投げかあ……私あれ、大嫌いなんだよね……」
さぞ嫌そうに、琴音が言う。
「——って言っても、準備運動の次がシャトルランでも嫌でしょ?」
「ホントだ! 何が来ても、私全部嫌だった!!」
そう言って笑う琴音と一緒に、私も声を上げて笑う。
サブカル好き、イラスト好き、運動は嫌い、そして、少しポッチャリ。
そう言えば、誰かに言われことがあったっけ。
お前たち、姉妹みたいだなって。
***
準備運動を終えた私たちのクラスは、ハンドボール投げへと移っていった。今年の順番は男子から。もう既に、4〜5人が投げ終えている。
「すごっ! 今の見た!? 流石、野球部だね! めちゃくちゃ飛んだんだけど!!」
琴音が驚いた声を上げた。今投げたのは、野球部の加藤くん。始まったばかりだけど、現時点での最高記録に違いない。そして彼の2投目もまた、周りを大いに賑わせた。
「俺やだよー、加藤のあととか。マジ、勘弁してくんねーかなぁ」
そう言って投球エリアに出てきたのは、憧れの桐島くん。そんな桐島くんの言葉に、周りの男子は「わかるー!」と言って笑っている。
高身長の桐島くんがハンドボールを持つと、そのボールはとても小さく見えた。少しだけ明るい短髪と、キリッとした目鼻立ちが誰よりも目立ってる。
去年は違うクラスだった、桐島くん。彼は一体、どんな投球をみせてくれるんだろう……
「——あらら。全然飛ばなかったね、桐島くん」
彼の飛球を見て、琴音は淡々と言った。
「ホ、ホントだね……私は正直、すごい遠くまで投げるのかと思ってた……」
「——どうして? 桐島くんがイケメンだから?」
「まっ、まあ……イメージからして、そうかなって……」
「ハハハ。そんな期待しちゃ、桐島くんが可哀想だよ」
琴音はそう言って、カラカラと笑った。あまり良い結果じゃなかったはずの桐島くんも、友達とハイタッチなんかして笑い合っている。
うん……完璧な人間なんて、そうそういるもんじゃない。そんな桐島くんを見て、少しだけホッとした私がいた。
***
「志帆、ガンバ!」
背後から琴音が声援を送ってくれた。
男子は全員投げ終え、女子の番が来たのだ。相川という名字のせいで、私はいつも一番に投げることになる。『女子ってどれくらい投げるんだろう?』そんな思いがあるからか、一人目は案外注目されていた。
『なんだあいつ、デカいのは身体だけかよ。やっぱ女子って全然ダメだな』
去年、誰かに言われた言葉を思い出す。
今日の私が本気で投げたら、どれくらい飛んでいっちゃうんだろう。アプリが消えてしまう『条件の達成』に怯えながらも、思いっきり投げてみたいという衝動には勝てなかった。
投球エリアの端まで下がり、助走をつける。
振り抜いた私の右手がムチのようにしなると、ハンドボールは遥か彼方へと飛んでいった。
玄関を出ると、いつものように琴音が家の前で待ってくれていた。私が遅れることはあっても、琴音が遅れたことはない。今日は体力測定ということもあり、琴音も体操服を着ている。
「おはよう——あれっ? 志帆痩せた……!?」
お母さん同様、琴音も同じことを聞いてきた。私自身はあまり変わってないと思っていたけど、他人から見ると違うようだ。明日、【ルックス】を10に上げるという計画は、考え直した方がいいのかもしれない。
「アハハ……今朝、お母さんにも同じこと言われたちゃった。実はね、ちょっとずつご飯の量、減らしてるんだ。——あ、そうだ! ついでと言っちゃなんだけど、琴音も一緒にダイエット始めてみない?」
そう言われた琴音は、「私が?」と言って肩をすくめた。
「んー……私はいいかな? 自分の体型、あんまり気にしてないし。——それより日記、先に渡しておくね。昨日は、めっちゃ気合入れて描いたから!」
琴音が笑顔で手渡してきたのは、私たちの交換日記。イラストを描くことが大好きな私たちは、その日の出来事などを絵で綴ることが多かった。しかも、琴音はめちゃくちゃ絵が上手い。その上、気合いを入れてくれた日記だなんて、今から楽しみで仕方がない。
空を見上げると、雲一つない快晴が広がっている。
そのせいか、少し傾斜のある通学路も、軽やかに上れている気がする。
いや……それはもしかして、95まで引き上げた、【運動神経】のせいなのかもしれない。
***
少し緊張しながら教室に入ったものの、「痩せた?」と誰かに聞かれることは無かった。
そりゃそうか……誰も私のことなんか、気にして見てないし。私はお弁当と交換日記を机に入れると、琴音と運動場に向かった。
「準備運動が終わったら、いきなりハンドボール投げかあ……私あれ、大嫌いなんだよね……」
さぞ嫌そうに、琴音が言う。
「——って言っても、準備運動の次がシャトルランでも嫌でしょ?」
「ホントだ! 何が来ても、私全部嫌だった!!」
そう言って笑う琴音と一緒に、私も声を上げて笑う。
サブカル好き、イラスト好き、運動は嫌い、そして、少しポッチャリ。
そう言えば、誰かに言われことがあったっけ。
お前たち、姉妹みたいだなって。
***
準備運動を終えた私たちのクラスは、ハンドボール投げへと移っていった。今年の順番は男子から。もう既に、4〜5人が投げ終えている。
「すごっ! 今の見た!? 流石、野球部だね! めちゃくちゃ飛んだんだけど!!」
琴音が驚いた声を上げた。今投げたのは、野球部の加藤くん。始まったばかりだけど、現時点での最高記録に違いない。そして彼の2投目もまた、周りを大いに賑わせた。
「俺やだよー、加藤のあととか。マジ、勘弁してくんねーかなぁ」
そう言って投球エリアに出てきたのは、憧れの桐島くん。そんな桐島くんの言葉に、周りの男子は「わかるー!」と言って笑っている。
高身長の桐島くんがハンドボールを持つと、そのボールはとても小さく見えた。少しだけ明るい短髪と、キリッとした目鼻立ちが誰よりも目立ってる。
去年は違うクラスだった、桐島くん。彼は一体、どんな投球をみせてくれるんだろう……
「——あらら。全然飛ばなかったね、桐島くん」
彼の飛球を見て、琴音は淡々と言った。
「ホ、ホントだね……私は正直、すごい遠くまで投げるのかと思ってた……」
「——どうして? 桐島くんがイケメンだから?」
「まっ、まあ……イメージからして、そうかなって……」
「ハハハ。そんな期待しちゃ、桐島くんが可哀想だよ」
琴音はそう言って、カラカラと笑った。あまり良い結果じゃなかったはずの桐島くんも、友達とハイタッチなんかして笑い合っている。
うん……完璧な人間なんて、そうそういるもんじゃない。そんな桐島くんを見て、少しだけホッとした私がいた。
***
「志帆、ガンバ!」
背後から琴音が声援を送ってくれた。
男子は全員投げ終え、女子の番が来たのだ。相川という名字のせいで、私はいつも一番に投げることになる。『女子ってどれくらい投げるんだろう?』そんな思いがあるからか、一人目は案外注目されていた。
『なんだあいつ、デカいのは身体だけかよ。やっぱ女子って全然ダメだな』
去年、誰かに言われた言葉を思い出す。
今日の私が本気で投げたら、どれくらい飛んでいっちゃうんだろう。アプリが消えてしまう『条件の達成』に怯えながらも、思いっきり投げてみたいという衝動には勝てなかった。
投球エリアの端まで下がり、助走をつける。
振り抜いた私の右手がムチのようにしなると、ハンドボールは遥か彼方へと飛んでいった。