アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-23:激ヤセ!?

「じゃあな、志帆。気を付けて帰るんやで」

 おばあちゃんは帰りの最寄り駅まで、一緒に来てくれた。美容院に「すぐ戻ります」という、プレートを下げてまで。

「ありがとう、おばあちゃん。急に泊まりに行くって言ったのに、色々してくれて本当に、ありがとう。髪型もすごい……すごい気に入って……」

 まさか、おばあちゃんと別れの挨拶をする時に、泣きそうになるとは思いもしなかった。一週間の間、2人きりだったせいだろうか。これ以上話すと、涙が溢れてしまいそうだった。

「なっ、なんちゅう顔してるん志帆! あんたがそんな顔したら、おばあちゃんも泣いてしまうやろ! ほら、もう行き! 電車くるから!」

 おばあちゃんは目を赤くさせながら、私を改札へと押しやった。

 私は無言で改札を抜け、おばあちゃんの方を振り返る。おばあちゃんはハンカチを目に当て、私に手を振っていた。

 ありがとう、おばあちゃん——

 また……また、絶対に来るからね……


***


「ただいま……」

 私は帰宅して、恐る恐るリビングの扉を開けた。家を出る前の【ルックス】45から、大阪旅行を期に一気に70まで上げたのだ。お父さんたちは、きっと驚くに違いない。

「おかえ——」

 笑顔だったお父さんの顔から、みるみる笑顔が消えていく。やはり、一気に70に上げたのは、やりすぎだったのかもしれない——

「し、志帆……おばあちゃん家で、ご飯食べてなかったのか? そんなに痩せて……」

「やっ、痩せただけに見える!?」

「そ、そりゃ、ヘアスタイルが変わったのも分かるよ。色々変わりすぎて、お父さんには何がなんだか……年頃の女の子の変わりようって、本当に凄いんだな……」

 もしかしてお父さんには、私が激ヤセしただけに見えてるってこと……? だとしたら、こんなに嬉しいことはないんだけど。


「おかえり志帆! 思ったより早かったじゃ——」

 シャワーを浴びていたお母さんも、振り返った私を見て言葉を失ってしまった。


***


「それで? 一週間でどれくらい痩せたの?」

「た、多分、10キロくらい……」

「でも、おばあちゃん家では、しっかり食べてきたんだよね? ——うーん……一体どうなってるのかしら、志帆の身体」

 お父さんとお母さん、そして私の3人で、リビングのテーブルを囲んでいる。

「まあまあ、母さん。志帆は見るからに健康そうだし、心配しなくていいんじゃないか? やつれてるならともかく、前よりキレイになってるくらいだし」

「まあ、そりゃ今はね。でも、このペースで体重が落ちていったら、そのうち大変なことになるよ? 私、それが心配で」

「た、多分、それはもう大丈夫。自分の身体のことは、私が一番よく分かってるつもりだから。もっ、もし、やつれて見えるようになったら、すぐに病院行ってくるから」

「うーん……本当は明日にでも、病院に行ってほしいくらいだけどね。——で? その髪型はなんのつもり?」

 あ……このままヘアスタイルもスルーできるかと思ったけど、そこまで甘くはなかったか。

「お……おばあちゃん家のヘアカタログ見て、凄い可愛かったから……おばあちゃんに、無理言ってお願いして……」

「はあ……おばあちゃんも、おばあちゃんよ。中学生だって分かってて、こんなヘアスタイルにしちゃうんだから」

「まあまあ、母さん。俺は似合ってると思うけどな、この髪型。個性があっていいじゃないか。——なあ、志帆」

 フフフ。思わず、おばあちゃん家で見た、お父さんの昔の写真を思い出した。流石、元オシャレ少年。分かってらっしゃる。


「あと、一つ心配なんだけど……私、整形してるようには見えないよね……?」

「整形!? あなた、整形なんてするお金も時間も無いでしょ? そんなの、見えるわけないじゃない」

「——じゃ、ただ痩せたようにしか見えないってこと?」

「変なこと聞く子ね。それ以外に何があるって言うのよ」

 や……やった!!

 私の親がこう言ってるんだ、きっと他の子たちもただ私は痩せたようにしか見えないはず。

 少し怯えていた始業式だったが、俄然楽しみになってきた。
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