アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-04:あるんですよ、そういうことも

「おっ……おい、何だよ今の……」

 数人の男子が立ち上がって、私が投げたボールを目で追っている。コロコロと転がっていたボールは、やっといま止まった。

「加藤の遠投、超えたんじゃね……?」

 私の遠投を見ていなかった子も、騒ぎ出した周りのせいか、ほぼ全員が立ち上がってしまった。

 助けを求めるように琴音を見ると、目を真ん丸にして私に拍手を送っている。

 に……2投目、どうしよう……

 次、本気出したら、流石にヤバいかも……


「おいおいおい……もしかして俺、からかわれてる? 女子が俺の記録、抜けるわけねーだろ」

 野球部の加藤くんだ。どうやら彼は、私が投げるところを見ていなかったらしい。

「いや、マジだよ。俺も見てたけど、最後のライン軽々と超えてったし」

 きっ……桐島くん! 私が投げるとこ、見てくれてたんだ!

「まさかアレか、桐島……? お前の記録がショボかったからって、俺のことサゲようとしてんのか?」

「はあっ!? なに言いがかりつけてんだよ、お前!!」

 加藤くんに対し、桐島くんが詰め寄った。背の大きな2人が睨み合うと、周りは騒然となった。

「待て待て、2人とも!! 悪いが俺も、男子の記録整理をしてて、相川の投球を見てなかったんだ。だが、もう一度投げたらハッキリするだろ。——すまん、相川。今度は俺もちゃんと見てるから」

 ハンドボールの記録を付けていた、体育教師の大塚先生だった。

 先生がそんな事を言うものだから、生徒全員の視線が私に集中した。もちろん、その中には加藤くんも桐島くんもいる。

 私がこんなに注目されるのなんて、生まれて初めてのことかもしれない——

 
***


「——大変だったね、志帆」

「うん、ホントに……っていうか、最後まで付き合ってくれてごめんね」

 多くの生徒が帰宅してしまった中、私たちはやっとのことで学校を出た。ハンドボール部とソフトボール部の部長から、熱烈な勧誘を受けていたからだ。

「嫌がってたみたいだけど、やってみても良かったんじゃない? どちらか本気で」

「や、やめてよ、琴音。私、運動部ってガラじゃないし。そ、それに……遠投以外はからっきしダメだったでしょ」

 ハンドボール投げを終えた後、その後の体力測定は全力で手を抜いた。それでも平均値以上を叩き出すんだから、アバター★ミーの力は本当に凄い。

 そういえば、ハンドボール投げの記録はダントツで私が一番だった。だけど、アバター★ミーの効果は今も続いている。どうやら、一番を一つ取るくらいだと、『条件の達成』には当てはまらないようだ。

「そういや、男子たちが喧嘩しそうになった時、本気でドキドキしたよね。桐島くんが怒るのなんて、初めてみたし」
 
 そう。ハンドボール投げの時のことだ。

 結局私は、2度目の遠投も本気で投げた。そうしないと、桐島くんの顔が立たなかったからだ。2度目の遠投は1投目の記録をも超え、生徒たちは大歓声を上げた。そんな中、大塚先生と加藤くんはポカンと口を開け、放心状態になっていた。

「でも、良かった。加藤くんがちゃんと桐島くんに謝ってくれて。加藤くんって怒りっぽいとこあるけど、そういうところはちゃんとしてるっていうか」

「ホント、そうだよね」

 琴音はそう言って、フフフと微笑んだ。

 真剣に謝る加藤くんに対し、桐島くんは「気にすんな」と笑っていた。私が同じ立場だったなら、彼のようにすぐに許せただろうか。


***


「どう、パパ? 志帆ってば、やっぱり痩せたでしょ?」

 お母さんにそう言われたお父さんが、ジッと私の顔を覗き込む。

「うーん……俺にはいつもと変わらんように見えるけどなぁ。今日は学校で沢山運動したから、スッキリ見えるだけじゃないのか?」

「もう……ホントにパパは、娘の顔ちゃんと見てないんだから。志帆が痩せたって思ったのは、今朝のことだし」

 お母さんはそう言って、夕食後のコーヒーを淹れに立った。

「そんな急に痩せるわけないのにな」

 お父さんはお母さんに聞こえないよう、私に耳打ちしてきた。

 でもね、お父さん。

 あるんですよ、そういうことも——
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