アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-06:人それぞれの悩み

「相川さんってさ……」

 そう言って、姫川さんがググッと私に顔を寄せてきた。くせ毛なのかパーマなのか、ふわりとしたヘアースタイルに、とても大きなパッチリとした二重。目尻にあるホクロも、その可愛さを一段と引き立たせている。女子同士なのに、こんな近くで見つめられると変になっちゃいそうだった。

「痩せたよね?」

「そうそう、俺も思ってた! そういうのってさ、あんまり言っちゃダメかなと思って、言わなかったんだけどさ」

 そう言ってくれたのは桐島くんだ。

 嘘でしょ!? 2人とも私の違いに、ちゃんと気付いてたの……?

「確かに。言われてみれば、そうかも」

 ああ……水野さんまで……

 私と同じくらいの身長に、超モデル体型。ツヤのある黒髪ショートに、切れ長の目元がバッチリキマってる。いつも賑やかな桐島くんたちのグループだけど、水野さんがはしゃいでるのは見たことがない。

「じゃあさ、ライン交換しとこうか。描いて欲しいイメージ送るから」

 そう言って、佐伯くんが琴音にスマホを差し向けた。

「わ、分かった!」

 慌ててカバンからスマホを取り出そうとする琴音。勢いが良すぎたのか、スマホを床に落としてしまう。

 分かる……分かるよ、琴音。

 私だって、桐島くんにそんなこと言われたら、そうなっちゃう自信あるもん。
 

***


 それから3日後。私たちは早くも応援旗の制作に取り掛かっていた。

 放課後の教室に残っているのは、佐伯くんと琴音と私の3人だけ。

「あいつら、めっちゃ気に入ってたよ。白石の下絵。『俺たちも手伝おうか?』って言ってきたから、ちゃんと断っておいたけど」

「え? どうして?」

「だってあいつら、ビックリするくらい不器用だからな。その上、飽き性だし。——途中から邪魔しかしてこないぞ、あいつらは」

 そんな佐伯くんの言葉に私たちは笑った。クールな見た目とは裏腹に、こんな毒舌キャラだったんだ。

 その時、教室の引き戸がガラガラと開いた。姫川さんだった。

「おう、莉奈。どうしたんだ?」

「い、いや、ちょっとリクエストがあって」

 そう言って姫川さんは、琴音が手に持っていた下絵を覗き込んだ。

「目尻のホクロさ……取ってくんないかなーと思って」

 その姫川さんの言葉に、私たち3人は「えー!!」と同時に声を上げた。

「何言ってんだよ、これこそ莉奈のチャームポイントじゃんか。もしかして、そのホクロ気に入ってないのか?」

「ホクロなんて好きな人、この世に一人もいないでしょ。私、大人になったら取っちゃうつもりだし」

 私たち3人は再び「えー!!」と声を上げた。


***


「それにしてもビックリしたね、姫川さんがホクロ気に入ってなかっただなんて」

 下校中、琴音が私に言ってきた。

「ほんとに。どれだけ可愛くても、人それぞれ悩みがあるんだね。まあ、イラストの方は、なんとか取らずにすんで良かったけど」

 琴音のイラストは、姫川さんの魅力を存分に表現したものだった。イラストの精度を上げているホクロを取るのは勿体ないと、佐伯くんがフォローしてくれたのだ。

 まあ、最終的には少しだけ、ホクロを小さくすることにはなったんだけど。

 そしてその応援旗が完成したのは、体育祭前日のことだった。


***


 今日は体育祭という、一大イベント。私は、【ルックス】15【運動神経】50【頭の良さ】10というスペックを割り当てている。

 昨日までは10だったルックスを、一気に15まで上げた。琴音はきっと、私の変わりようにすぐに気付くはずだ。ここは勢いで乗り切るべく、力強くドアを開け、琴音に声をかけた。

「おはよう! 琴音!」

「お……おはよう……」

 毎日、「痩せた?」と聞くのにも疲れたのかもしれない。何度か私をチラッと見た琴音は、思いがけないことを言った。

「志帆、そのままずっと痩せられるなら、モデルさんとか目指してみたら……? 志帆って背は高いし、顔もちっちゃくて可愛いし」

 か、可愛い!? それを言うなら、琴音の方がずっと可愛いんだけど!?

「わ、私には、モデルさんなんて無理だよ。今だって、同じクラスの水野さんの方がずっとモデルっぽいし」

「あー、水野さんは確かに。でも、水野さんは関係なく、ホントにいけるような気がするけどね」

 どうやら琴音は本気で言っているようだ。琴音がそんな風に私を見てくれていたのは意外だった。痩せている今だから、言ってくれたんだと思うけど。

「そっ、それにしても、今年は私たちも狙える賞があるから、アガるよね!」

 想像もしていなかったことを言われた私は、慌てて話題を変えた。

「うーん、どうかな……他のクラスはどんな応援旗作ったのか、まだ見てないし……」

 体育祭の標準的な表彰とは別に、『応援賞』『応援旗賞』というものがある。私は本気で、『応援旗賞』を狙えると思っている。

「佐伯くんも言ってたじゃん、『応援旗賞は、俺たちが貰った!』って。私も、絶対いけると思ってる!」

 そう言った私に、「だったらいいね」と琴音は笑顔で答えた。
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