アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜
Scroll-08:本当の一番
「先生! 応援旗がダメだった理由、教えて欲しいんだけど!」
体育祭後に集まった教室で、桐島くんが担任の川瀬先生に質問を投げかけた。
「ダメだった理由か……ダメだった理由なんて、ひとつもないんだけどね。ただ、賞を取ったクラスにはそれがあったってことなの」
「もっ、もしかして、あのキモい手形のこと!?」
姫川さんが顔をしかめてそう言った。優勝した2年1組の応援旗には、クラス全員の手形がペタペタと旗に散りばめられていた。
「まっ、まあ……言い方はさておき、そういう事ね。優勝した組は、クラス全員を主役にする旗を作った。——その点、私たちのクラスは主役が一部の人になっちゃってたから」
「なんか、それ聞いたら申し訳なくなるよ……佐伯くんなんて、アイデアが決まったり、下絵が出来る度に、『これで進めるけどいいか?』って、聞いて回ってくれてたのに……」
「ホント、そうだな……俺たち、ただただ任せっきりだったもんな……」
ソフトボール部の大島さんと、野球部の加藤くんだ。他の生徒も2人の言葉に静かに頷いた。
「じゃ、じゃあ、デザイン賞は? あれまでダメだった理由は?」
桐島くんがそう聞くと、先生は腕を組んで下を向いてしまった。
小さな声で、「うーん……困った……」と呟く。
「せ、先生……絶対に漏らしたらダメな話なら、俺たち絶対言わないから……」
他の生徒もウンウンと頷く。
「まあ、私も話すからには、バレても仕方ない覚悟で話すけどね。まず、なぜ3年3組の旗がデザイン賞を取れたのか。それに関しては言えないの、本当にごめん。——だけど、多数決を取った時の結果は、ダントツで白石さん。あなたのデザインだった。だから自信持って。私もあの旗が一番だったと思う」
先生が言い終えると、教室に拍手がおきた。正直に話してくれた先生と、本当なら一番のデザインを描いた琴音に対してだ。琴音も目を潤ませながら、先生に拍手を送っている。
「——もしね、このクラスで同窓会があって、皆でお酒でも飲めるようになったら、その時に話してあげる。だから、その時まで待ってて」
「ってことは、早くてあと6年後か……あと6年でいなくなりそうな先生っていえば……」
「こっ、こら、やめなさい桐島くん!!」
本気で慌てる川瀬先生に、教室がどっとわいた。
***
「今日の焼肉は、いつもより豪華だな母さん。なんかお祝いごとでもあったっけ?」
お父さんはそう言って、美味しそうにお肉を頬張った。そして、お肉を食べ終わるとググッとビールを流し込む。
「もう……! いつ話題にしてくれるかと待ってるのに、全然聞いてこないんだから。ねえ、志帆」
「ハハハ、そりゃ仕方ないよ。今までの体育祭は、私が“聞いてこないでアピール”してたから」
体育祭で良い思い出なんてなかった私は、「今日の体育祭、どうだった?」とお父さんに聞かれても、いつも塩対応をしていたのだ。
「なになに? もしかして今日の志帆は、活躍でもしたってことか?」
お母さんは私が混合リレーのメンバーに選ばれたこと、私の前の走者が転んでしまったこと、そして私が全員を抜き去ったことを話してくれた。
「ぜっ、全員を抜いたのか!? そんなことなら、会社休んででも見に行けばよかったよ!! ——って、母さん。なんで動画撮っておいてくれなかったんだよ」
「ああいいうのは、自分の目に焼き付けておくからこそ、価値があるのよ。——それにしても、今日の志帆はカッコよかったぁ。私に手を振る余裕まであったんだから」
お母さんは目をキラキラとさせながらそう言った。だけど、こうなると分かっていたら、きっとお母さんも動画を撮っていたはずだ。
「志帆、これ少ないけどお祝いだ。——それにしても、志帆が体育祭で活躍するとはなあ。お父さん、なんか嬉しいよ」
そう言ってお父さんは、私に千円札を手渡してくれた。思ってもいなかった臨時収入だ!!
私が礼を言うと、頬を赤らめたお父さんはニッコリと微笑んだ。
体育祭後に集まった教室で、桐島くんが担任の川瀬先生に質問を投げかけた。
「ダメだった理由か……ダメだった理由なんて、ひとつもないんだけどね。ただ、賞を取ったクラスにはそれがあったってことなの」
「もっ、もしかして、あのキモい手形のこと!?」
姫川さんが顔をしかめてそう言った。優勝した2年1組の応援旗には、クラス全員の手形がペタペタと旗に散りばめられていた。
「まっ、まあ……言い方はさておき、そういう事ね。優勝した組は、クラス全員を主役にする旗を作った。——その点、私たちのクラスは主役が一部の人になっちゃってたから」
「なんか、それ聞いたら申し訳なくなるよ……佐伯くんなんて、アイデアが決まったり、下絵が出来る度に、『これで進めるけどいいか?』って、聞いて回ってくれてたのに……」
「ホント、そうだな……俺たち、ただただ任せっきりだったもんな……」
ソフトボール部の大島さんと、野球部の加藤くんだ。他の生徒も2人の言葉に静かに頷いた。
「じゃ、じゃあ、デザイン賞は? あれまでダメだった理由は?」
桐島くんがそう聞くと、先生は腕を組んで下を向いてしまった。
小さな声で、「うーん……困った……」と呟く。
「せ、先生……絶対に漏らしたらダメな話なら、俺たち絶対言わないから……」
他の生徒もウンウンと頷く。
「まあ、私も話すからには、バレても仕方ない覚悟で話すけどね。まず、なぜ3年3組の旗がデザイン賞を取れたのか。それに関しては言えないの、本当にごめん。——だけど、多数決を取った時の結果は、ダントツで白石さん。あなたのデザインだった。だから自信持って。私もあの旗が一番だったと思う」
先生が言い終えると、教室に拍手がおきた。正直に話してくれた先生と、本当なら一番のデザインを描いた琴音に対してだ。琴音も目を潤ませながら、先生に拍手を送っている。
「——もしね、このクラスで同窓会があって、皆でお酒でも飲めるようになったら、その時に話してあげる。だから、その時まで待ってて」
「ってことは、早くてあと6年後か……あと6年でいなくなりそうな先生っていえば……」
「こっ、こら、やめなさい桐島くん!!」
本気で慌てる川瀬先生に、教室がどっとわいた。
***
「今日の焼肉は、いつもより豪華だな母さん。なんかお祝いごとでもあったっけ?」
お父さんはそう言って、美味しそうにお肉を頬張った。そして、お肉を食べ終わるとググッとビールを流し込む。
「もう……! いつ話題にしてくれるかと待ってるのに、全然聞いてこないんだから。ねえ、志帆」
「ハハハ、そりゃ仕方ないよ。今までの体育祭は、私が“聞いてこないでアピール”してたから」
体育祭で良い思い出なんてなかった私は、「今日の体育祭、どうだった?」とお父さんに聞かれても、いつも塩対応をしていたのだ。
「なになに? もしかして今日の志帆は、活躍でもしたってことか?」
お母さんは私が混合リレーのメンバーに選ばれたこと、私の前の走者が転んでしまったこと、そして私が全員を抜き去ったことを話してくれた。
「ぜっ、全員を抜いたのか!? そんなことなら、会社休んででも見に行けばよかったよ!! ——って、母さん。なんで動画撮っておいてくれなかったんだよ」
「ああいいうのは、自分の目に焼き付けておくからこそ、価値があるのよ。——それにしても、今日の志帆はカッコよかったぁ。私に手を振る余裕まであったんだから」
お母さんは目をキラキラとさせながらそう言った。だけど、こうなると分かっていたら、きっとお母さんも動画を撮っていたはずだ。
「志帆、これ少ないけどお祝いだ。——それにしても、志帆が体育祭で活躍するとはなあ。お父さん、なんか嬉しいよ」
そう言ってお父さんは、私に千円札を手渡してくれた。思ってもいなかった臨時収入だ!!
私が礼を言うと、頬を赤らめたお父さんはニッコリと微笑んだ。