もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
新しい海外の案件が本格的にスタートした。
先日の会議で通訳を申し出たこともあり相手からは時々私宛に連絡がくるようになってしまった。
もちろん松木さんがリーダーであるのは変わらないが、彼がいない時は必ず対応するようになり、より深くこの案件に関わるようになってしまった。

「ごめん、ここを訳してもらっていい?」

松木さんは苦手なところを自分できちんと口にして私に頼んでくる。私が以前出しゃばってしまったかも、と思った時もそんなふうにはと取らずありがたかった。

「もちろんです」

私は書類を受け取るとパソコンで確認し始め、訳が終わると松木さんの下へ届ける。翻訳しただけでなく、その解釈も添えると「本当に助かるよ」と笑って頭を掻いていた。そうやって言ってもらえることにこちらこそ自信をもらい、そして少しだけど誇らしく感じた。
ふと課長に視線が向かうと、私たちのその姿を見ていたようで目が合うと頷いてくれていた。課長にも認められたようでなんだか胸の奥がほのかに温かくなるのを感じた。

昼休みにも松木さんは声をかけてきた。

「花菱さん、さっきはありがとう。ニュアンスの説明、すごくわかりやすかった」

「いえ、そんな……」

「TOEIC取ってる?」

「はい。1番最後に受けたものが860でした」

その言葉に松木さんは少し興奮気味に驚いていた。

「すごいじゃないか。どうやって勉強してきたの? もっとこのスキルを全面に押し出したらいいのに。もったいないよ」

「電車の中で聞いていたり、テキストを自宅で勉強したり、ですかね。英会話も1年くらい通ってはいましたが今はやめてしまいました」

「そうなんだね。俺なんて700後半だよ。伸び悩んでる」

松木さんは元々面倒見もいいし気さくな人だが、今まで会話らしい会話なんてあまりしたことがなかった。だから少し緊張してしまうが、彼は何故かグイグイと会話を続けてしまう。悪い人ではないとわかっているが、あまりの勢いに押されつい表情が固くなってしまう。

「松木さん、電話が入っているようだが」

ひょっこり課長が休憩室に顔を出した。その見慣れた顔に何故かホッとしてしまった。
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