もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
休憩室でお弁当を広げると、ふいに隣に課長が座った。

「……課長?」 

驚いて声を上げると、彼は何気ない口調で言った。  

「この前の……なんだっけ。“ときめきスパイラル”?」

日菜は箸を持つ手を止め、顔を真っ赤にする。

「えっ……!」

会社では口にしたことのない言葉を、彼が知っている。その事実に心臓が跳ねる。 橘は気まずそうに視線を逸らし、わずかに肩をすくめた。

「……悪い。少し調べてみた」

「し、調べ……!?」

思わず声が裏返ってしまった。

「推し、って言うんだろう?」

課長は不器用に続ける。

「そういう存在がいると、頑張れるって。……ああいうの、俺にはなかったからあのあと気になって」

不意な言葉に黙ってしまった。興味本位ではなく、ただ自分のことを理解しようとしてくれている、そんな姿勢に胸の奥がじんわり熱くなる。

「その、はい。推しは……頑張る理由、みたいなものです」

小さな声で返すと、穏やかに頷いていた。

「なるほど。いいな。確かに彼らを見てると明るくて、力をもらえるって君が言う意味が少し分かった気がしたよ」

その一言が、まっすぐ心に刺さった。
まさか休憩室でこんな話を振られるとは思っても見なかったけど、それだけ私の趣味に理解を示してくれているのだと実感し、心の奥がまた温められた。
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