もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
「ここはイタリアンという名のなんでもある店だし、意外とうまい。日菜も気にいるといいんだけど」

「お友達のお店なんですね。彼女だと言ってよかったんですか?」

小さな声で気になったことをいうと、

「もちろんだ。部下を連れてくる訳ないだろう。友達に紹介、自慢したいから連れてきた」

え?まさか私なんかを自慢したいなんて真紘さんはおかしい。キッチンに戻った彼女が旦那さんのシェフに何か話している様子が目の端に入る。

「日菜はどんな人とも比べものにならない。俺の自慢だよ」

その言葉に胸が熱くなった。さっき皓介と彼女に会い、何だか自分を見下されているような視線に胸が重苦しくなった。こんな綺麗な彼女が現れたら私のことを捨てるなんて当たり前だと思った。皓介から聞いた時は上司の娘さんだから、彼は出世のためにそちらを選んだんだと思っていたけど、こんな見た目も綺麗な人なら私にはなんの勝ち目もなかったのだ。そのことに気がつきたくなかった。
そんな私の気持ちを察してか真紘さんは皓介たちの前で堂々としていた。そして私のことを連れ出してくれた。

「自慢な訳ない。私は……」

「俺にとって君は自慢だよ。ようやく手に入れた最高の人だから」

その言葉にグッと喉の奥が締まった。私のことをそんなふうに思ってくれる人がいる、それを伝えてくれる人がいる。そのことだけで気持ちが浮上してきた。それと同時に彼のことが本当に好きだと思った。私の方こそ自慢の彼だと思う。恐れていてはいけない、自分の気持ちに素直で正直でいたい。もう恋を逃したくはない。顔をしっかり上げると彼と視線が絡まりあう。彼の足が私の足にぶつかってきた。ううん、わざとだ。捕まえたと言わんばかりに足先触れ合う。そんな仕草にドキッとしてしまう。この気持ちがもどかしく、もっと彼の近くに行きたい。こんな感情にさせられるのは初めてだった。

「注文は決まった?」

近藤さんはタイミングを見計らったようにテーブルにやってきた。まだ何も決めていない私はハッとした。すると彼は「適当に持ってきて」と言う。メニューがあるのにそんな注文の仕方でいいのかと思うが、彼女は笑っていた。

「日菜さんは苦手なものあるかしら?」

「いえ。何もありません」

「わかったわ。今日はあなたがいたからメニューを渡したの。でもいつも渡瀬くんはこんな感じで適当に持ってきてと言うのよ。まったくねぇ。あ、でもいつもここにくるのはひとりよ。友人さえも連れてきたことはないわよ」

慌てたように付け加えた言葉に私は頷いた。するとホッとしたような表情を浮かべていた。キッチンに戻ると、彼の注文をすでに想像していたのか早速ブルスケッタとカルパッチョが運ばれてきた。同時に白ワインも持ってきていて驚いた。

「どうせわかってたんだろ、俺がメニューを開いて注文なんてしないって」

「ふふふ、(まこと)はそう思ったみたい。私は今日は格好つけてちゃんと頼むんじゃないかと思ったんだけど。読みが甘かったわ。さすがは誠だわ」

そんな会話を彼が誰かとするのを見るのは初めて。会社では見せない様子に嬉しくなる。
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