もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
エレベーターで屋上に上がった。寒いこの季節にここにくる人はいないと思ったから。
あぁ、またなの?また私は捨てられるの?
皓介の時もそうだった。親の期待に沿うため?自分に有利だから?
真紘さんが御曹司だと分かった上で付き合ったのは自分。もしかしたらこんなことになるのではないかと内心思わなかったわけではない。何もない自分が選ばれただけでも奇跡だったから。
自然と涙が込み上げてきた。ハンカチをぎゅっと目元に押し当てる。嗚咽が漏れそうになるが歯を食いしばり我慢する。
ここで泣いてはいけない。
何度も何度も大きく深呼吸する。肺には冷たい空気が入り込んできて私の熱くなった喉元を鎮めてくれた。
だからもう恋なんてしたくなかった。彼を好きになりたくなかった。
空を見上げると声が漏れた。

「あーーー」

大きく息を吐き出すと同時に声が出ると少し落ち着きを取り戻してきた。今は仕事中。自分のすべきことをしなきゃダメだと鼓舞し、営業部へ戻った。さっと彼の席を横目に見ると、資料を取りに立ち寄っただけの真紘さんはいなかった。ホッとすると自分のデスクに行くとルーティンワークに取りかかった。そして定時になると同時にパソコンの電源を落とすと退勤した。
足早に駅に向かうと横目も振らずに帰宅した。
玄関に入ると同時に我慢していた涙が堰を切るように溢れ出した。
うぅ……。
玄関にしゃがみこむと声をあげ泣き始めた。昼間我慢した分も流れ始め、止める術がない。
どうして私を好きだなんて言ったの?
縁談の話が出ているのをいつ私に言うつもりだった?
また皓介の時のように都合よく別れを告げるつもりだった?
あぁ、どうして私はこうなんだろう。
真紘さんが御曹司だと分かった時に自分には見合わないと気持ちを抑えるべきだったのに、好きになってはいけない人だったのに手を伸ばしてしまった。どうしても彼の気持ちが嬉しかった。私も彼への気持ちが止められなかった。でもそれは間違いだった。こんな別れが待っているのなら私はこの部屋から出るべきではなかった。
よろめきながら部屋に入るとひかるくんのならクッションに手を伸ばす。

「やっぱりだめだった。私はひかるくんさえいてくれればよかったのに、真紘さんにまで手を伸ばしてはいけなかったね」

ぎゅっと抱きしめると胸が苦しくなる。
DVDに手を伸ばすとテレビからはときめきスパイラルの映像が流れ始める。
“僕がそばにいるよ“
本当にそうだね、私のそばにいるのはひかるくんだけかもしれないね。

なぜか今日は彼からのメッセージも届かなかった。付き合い始めて初めてのことだった。
私からメッセージを送ることもあるが、一度もやりとりがなかったのは初めてだった。
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