もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
彼が連れていってくれたのは初めて一緒に旅行した時に宿泊したホテルだった。
エントランスを入るとあれからそんなに経っていないはずなのに随分と過去のような気持ちになる。
後部座席に置いた私の荷物と彼の荷物を出すとフロントに向かった。

「渡瀬です。すみません、急な連絡に対応していただいて」

「いえ、大丈夫ですよ。ようこそお越しくださいました。ごゆっくりなさってください」

キーを渡され案内されたのはあの人同じ部屋だった。
ふたりきりになった途端、彼にぎゅっと抱きしめられ、私は棒立ちになった。

「日菜……」

どこか切ない声に私の胸がぎゅっと締め付けられる。まだこの腕の中にいてもいいの?
音のないこの部屋で聞こえるのは私と彼の息遣いだけ。

「このドレス、とても似合ってるよ」

そういうと私の体から少し離れた彼が私の頬をそっと撫でる。彼に見つめられ、私も彼を見つめ返す視線が外せない。

「綺麗だ」

心臓がドクンと大きく脈を打つ。

「こっちに来て」

私の手を引くと部屋の中に進み、水庭の見えるリビングへと向かう。午後結婚式だったので外はすでに暗い。あの立派な水庭もあまり見えないだろう。
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