フェアリーヤーンが紡いだ恋 〜A Love Spun with Fairy Yarn〜

　視界がぼやけていくのを感じながら、里桜は足早に女性トイレへ戻った。

　手洗い場に両手をつき、しばらく俯いたまま呼吸を整える。

　（……なに、この感情？　私には関係ないじゃん。どうして、泣きそうになるの？）

　初めて味わうこの『気持ち』。直感でわかっていた。あまり良いものじゃない、と。

　ゆっくり顔を上げ、鏡をのぞいた瞬間――息が止まった。映っていたのは、嫉妬と悲しみに歪んだ自分の顔。

　学生時代の記憶がよみがえる。仲の良かった女子二人が、一人の男子をめぐって言い争い、友情が壊れていったあの場面。

　（ああ……ひどい顔。
　あの時のあの子たちと同じ。
　どうして、私が……？）

　ふーっと大きく息を吐き、まるで呪文のように言葉をこぼした。


　「私は争い事が嫌い。平穏に、好きなものに囲まれて、静かに暮らしたい。だから――恋なんて、したくない」


　自分の気持ちに蓋をし、知ろうともしない里桜。その背後で、彼女の穏やかな日常が、確かに大きく変わってきていた。