〜続〜空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
カフェで樹と分かれた後ふらっと本屋に寄って小説を立ち読みしてから帰路についた。

両親とも医療関係者で夕飯を三人揃って囲むことはまず無い。

優雅なティータイムを過ごしてしまったからまだお腹も空いていない。

ならば今日の講義の復習をしよう。

と思ったその時。

スマホがブーブー音を立てた。

この時間ってことは、

やっぱり。


「もしもし」

「ごめんね。帰ってた?」

「うん。ついさっき」

「そう」

「それで?何か用事?」

「あ、うん。まぁ、大したことないじゃないんだけど…」


いつになく青空の歯切れが悪い。

なんとなく言いたいことがわからなくもないが、ここは黙っておく。

あーとかうーんとか繰り返して青空はようやく重い口を開いた。


「あのさ、花火大会のことなんだけど。…やっぱさ、三人で行かない?樹と二人で気まずいとかそんなのは今さらないんだけど。なんか…このままじゃ颯翔ずっと前に進めないままなんじゃないかと思って」

「…うん」


俺はそれだけ言って黙った。

ほんと、この手の話になるとなんて言ったらいいのか分からない。

言葉が何も浮かんでこない。

代わりに浮かぶのは、

あの日の

あの子の

必死に涙を堪えて笑っていた

あの複雑な顔で。

思い出す度に胸がギュッと締めつけられる。


「当日、最後まで待ってるから。樹にもそう言っておく」

「…分かった」

「無理にとは言わないけど…でも、あたしはそろそろ進んでほしい。見守ってるこっちが辛くなるってのもあるから、ほんとあたしのエゴでしかないのかもしれないけど。それでも、やっぱり…前に進む、時を進めるための一歩にしてほしいってそう思う。一方的でごめん。…じゃあ、また今度ね」

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