わたし、お妃様にはなりません!?

お姫様だけど先立つものはありません

「詩花(しか)ねぇちゃん! 算数を教えてよ! ここの計算が難しいんだ!」
 わたしは6歳から12歳までの子どもたちに勉強を教える仕事をしているの。わたしの年齢は今年で13歳。赤兎(せきと)国では13歳になる若者は仕事に就くのが一般的なんだ。中には働かない人もいるけれどそれは貴族とか特別な人たちなの。
「ごめんね、詩花。本当はあなたを働かせる必要はないのに」
 いつの間にかお母さんがわたしの背後に立っていた。お母さんは色白で細くていかにもお姫様って感じ。貴族だから本当は働く必要がないのだけれど、こうして学校のお昼ご飯をつくる仕事をしている。
「ありがとう! 女福(じょふく)さま!」
 お母さんが運んできたおにぎりの山を見て子どもたちは勉強のことをすっかり忘れて、我先にとおにぎりに手を伸ばした。
「うわぁ、美味しいっ! お米が食べられるなんて学校ってさいこうだよっ!」
 お米はとっても貴重な食べ物で、普通は貴族しか食べられない。お金のやりくりは大変だけれど、笑顔の子どもたちをみると先生をやっていてよかったなと思う。やんちゃな子も多いけれど、みんな素直で良い子だ。
「お母さん、わたしは教えることが好きだし。それに貴族っていうか、お姫様って柄でもない地味な女の子だから今のままでいいんだよ」
「お父さんが生きていたらもっといい暮らしができたのだろうけれど……。あなたのお父さんは都のお城に勤めていたのよ!」
 この国には30の県があっても都はひとつだけ。都で働くことは貴族にとってものすごい自慢だったし、たくさんのお金がもらえるお仕事だった。
「何回も聞いたよ。生きていたら大臣になったかもしれないんでしょう」
「そうそう! かっこよくてなんでも出来る素敵な人だったわ」
 お母さんは空を見つめながら思いを馳せている。かっこいいお父さんと美しいお姫様の間に生まれたのが平凡なわたしなのだ。
「詩花ねえちゃん! ここはご飯もでるしめっちゃ楽しいよ! 勉強もできるしさー!」
 民は勉強を学ぶ機会がほとんどないのだけれど、お父さんは学校というものを県につくっていた。教育が人を育てるからだそうだ。そして人は国の宝だと言っていた。おまけに学校へ通う子どもたちにはお昼ご飯まで無料で提供している。こんな県は他にはないの。だって、普通の貴族は自分の財産を増やすことしか考えていないからね。民のために学校を作るなんて絶対にやらない。
「お母さん、あのさ、大丈夫?」
 お母さんはわたしの考えを察したのか、教員室へと連れて行った。
「詩花、ご飯を喜んでいる子どもたちの前では言えないけれど、お昼ご飯を出すのはかなり厳しいわ。それどころかわたしたちがご飯を食べられなくなるかもしれない。新しい王様になってから貰えるお金も少なくなってしまったし」
「そうだよね。やっぱりわたしが後宮にいってお妃様候補になるしかないか……」
「ええっ!? 詩花、やっとその気になってくれたの?」
「正直、恋愛とかわからないし、わたしじゃお妃様にはなれないだろうけれど……王様からお金がたくさん貰えるじゃない。そうしたら学校のみんなもお母さんも暮らしていける」
 わたしがそう言うとお母さんは涙を流した。
「ええっ、な、なんで泣くのよ。わたしも都には一度行ってみたいと思っていたし平気だよ」
「うん。ありがとう詩花。だけれど、もしかしたら王様と結婚できるかもしれない。そうしたらきっと幸せになれるから」
 お母さんはそう言うけれど、うーん、わたしはあまり興味ないなぁ。いつか結婚はしてみたいけれどどうしても王様と結婚がしたいわけではない。相手の顔も年齢も知らないし。というか、王様と結婚するには30の県から集められたお姫様たちの中で一番にならないといけないのだ。わたしには到底無理だろう。
「じゃあ、わたしは都へ行ってくるわね。学校は夏休みということにしてしばらく休みにしておいて。わたしの代わりになる良い先生がいたら紹介するから」
「わかったわ、詩花。わたしたちのことは心配しないで都へ行ってらっしゃい」


 ⭐︎しりとりめいろで都を目指そう!⭐︎
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