わたし、お妃様にはなりません!?
ノブレスオブリージュ
わたしはお母さんが子供の頃に着ていた綺麗な朱色の着物を身にまとい、都にあるお城へと向かった。歩いてじゃない。白い馬が馬車を引いている。乗り物も豪華で珍しいガラスというものを使った窓もついていた。わたしは窓から都を見ては胸をときめかせていた。恋への期待が全くないわけじゃないからね。どんな王様なのか会ってみたい。
「詩花姫様! 都が見えてきましたよ! 王様ってどんな方なんでしょうかねぇ」
わたしの世話係の海風(みかぜ)も興奮している。海風は貴族じゃないけれどわたしよりずっと美人で年上の女の子。赤兎国では勉強の他に魔法も勉強しないといけないのだけれど、海風は魔法の腕前も一流だった。
「そうねぇ、怖い人じゃないといいけれど」
そう、わたしの王様のイメージだとものすごく怖い人。部下に厳しいなどあまり良い噂はなかった。王位争いの時には王様候補の兄を追い出して、王様になったとも聞いていた。
「将来の旦那様になるかもしれない方なんですよね」
「うーん、海風やお母さんには悪いけれど……多分、お妃様にはなれないよ。わたしって地味だし。お城でも目立たずにのんびり暮らせたらそれでいいかな」
「詩花姫様は欲がありませんねぇ。他のお妃様候補は意地悪をしてでも自分が一番になるために必死だと聞きますよ」
馬車が城門を抜けると綺麗に舗装された石畳と立派な石造りの建物が並んでいた。わたしの街はみんな木造の建物だから、一目で都会だとわかる。
「すごいわねぇ。人もとっても多いわ」
「一万人が暮らしているとか。貴族の別荘もあります」
「そういえばお父さんも都で働いていたもんねぇ。海風は都と故郷どっちで暮らしたい?」
「そ、それはもちろん姫様のそばです」
「いやいや、そういう建前はいいから。本音を聞かせてよ。もしかしたら、海風が都で暮らすことになるかもしれないんだし」
「ええっ!? ほ、本音ですか? うーん……都に憧れはあります……ちょっぴりですが」
若い女の子ならそうだよね。
「しばらくは後宮で暮らすことになるんだし、都の暮らしにも慣れないとね」
そんなことを話していると小さな子どもが大人に捕まえられているのが目に入った。
「馬車を止めて!」
わたしがそういうとぴたりと馬車が止まる。姫として恥にならないように、険しい顔つきでなるべく高貴なオーラを出して馬車を降りると、一歩一歩ゆっくりとふたりに近づく。こういう時は大人相手でも舐められたらだめだからだ。
「どうして子どもを捕まえているのですか?」
「き、貴族さまですか? あの、この子はウチの食べ物を盗んだんです」
その子はまだ10歳くらいの子どもだった。手にはリンゴのような果物をにぎっている。子どもは十分に食事をとってないのかひどく痩せていた。
「わかりました。その子が盗んだ食料の代金はわたしが払いましょう」
そんな交渉をしていると、刀を腰に差した同い年くらいの若者がこちらに走ってくる。
「事件ですか?」
「ええ、役人さま。この子を牢屋に放り込んでください」
「いえ、代金はこのわたしが払います。牢屋に入れる必要はありません」
「うーん、そうは言ってもなぁ。あんたも変わった貴族だね」
「わたしは詩の県からきた妃候補の詩花です。人は国の宝だと思っております。そして、この子はなにか事情があったのでしょう」
突然のことに海風も戸惑っているみたいだった。大人しいわたしがこんなことをするなんて思ってもみなかったのだろう。だけれど、子どもたちの先生をしていたわたしにとって、子どもがこんなに痩せていることも、食べるものがないことも許せないことだった。
「詩花さま、わかりました。この子は牢屋にいれません」
顔立ちの整った青年はキリっとした目尻を下げて子どもの頭を撫でた。
「大丈夫か? 帰る家はあるか?」
「ないよ。お父さんもお母さんも病気で……」
子どもの言葉には青年も困った様子だ。
「わかりました。この子をわたしの家来にしましょう」
「ええっ!?」
わたしの発言には子どもも青年も、追いかけていたおじさんまでも驚いていた。
「あなたの帰るべき場所はわたしのそばです」
「す、すごいな。詩の県というのはそのように豊かな県だったのか……」
青年が思わず声にした。いえいえ、めちゃくちゃ貧乏ですよ。ただ、わたしの助けられる範囲の民はみんな助けるつもりでいる。それが貴族として、領主としてのつとめだからだ。難しい言葉でノブレスオブリージュと言うらしい。
「あなた、名前は?」
「あ、あたしの名前は虹(にじ)といいます」
「海風、虹のために服を買うわよ」
⭐︎虹を可愛くしてあげよう! 塗り絵⭐︎
「詩花姫様! 都が見えてきましたよ! 王様ってどんな方なんでしょうかねぇ」
わたしの世話係の海風(みかぜ)も興奮している。海風は貴族じゃないけれどわたしよりずっと美人で年上の女の子。赤兎国では勉強の他に魔法も勉強しないといけないのだけれど、海風は魔法の腕前も一流だった。
「そうねぇ、怖い人じゃないといいけれど」
そう、わたしの王様のイメージだとものすごく怖い人。部下に厳しいなどあまり良い噂はなかった。王位争いの時には王様候補の兄を追い出して、王様になったとも聞いていた。
「将来の旦那様になるかもしれない方なんですよね」
「うーん、海風やお母さんには悪いけれど……多分、お妃様にはなれないよ。わたしって地味だし。お城でも目立たずにのんびり暮らせたらそれでいいかな」
「詩花姫様は欲がありませんねぇ。他のお妃様候補は意地悪をしてでも自分が一番になるために必死だと聞きますよ」
馬車が城門を抜けると綺麗に舗装された石畳と立派な石造りの建物が並んでいた。わたしの街はみんな木造の建物だから、一目で都会だとわかる。
「すごいわねぇ。人もとっても多いわ」
「一万人が暮らしているとか。貴族の別荘もあります」
「そういえばお父さんも都で働いていたもんねぇ。海風は都と故郷どっちで暮らしたい?」
「そ、それはもちろん姫様のそばです」
「いやいや、そういう建前はいいから。本音を聞かせてよ。もしかしたら、海風が都で暮らすことになるかもしれないんだし」
「ええっ!? ほ、本音ですか? うーん……都に憧れはあります……ちょっぴりですが」
若い女の子ならそうだよね。
「しばらくは後宮で暮らすことになるんだし、都の暮らしにも慣れないとね」
そんなことを話していると小さな子どもが大人に捕まえられているのが目に入った。
「馬車を止めて!」
わたしがそういうとぴたりと馬車が止まる。姫として恥にならないように、険しい顔つきでなるべく高貴なオーラを出して馬車を降りると、一歩一歩ゆっくりとふたりに近づく。こういう時は大人相手でも舐められたらだめだからだ。
「どうして子どもを捕まえているのですか?」
「き、貴族さまですか? あの、この子はウチの食べ物を盗んだんです」
その子はまだ10歳くらいの子どもだった。手にはリンゴのような果物をにぎっている。子どもは十分に食事をとってないのかひどく痩せていた。
「わかりました。その子が盗んだ食料の代金はわたしが払いましょう」
そんな交渉をしていると、刀を腰に差した同い年くらいの若者がこちらに走ってくる。
「事件ですか?」
「ええ、役人さま。この子を牢屋に放り込んでください」
「いえ、代金はこのわたしが払います。牢屋に入れる必要はありません」
「うーん、そうは言ってもなぁ。あんたも変わった貴族だね」
「わたしは詩の県からきた妃候補の詩花です。人は国の宝だと思っております。そして、この子はなにか事情があったのでしょう」
突然のことに海風も戸惑っているみたいだった。大人しいわたしがこんなことをするなんて思ってもみなかったのだろう。だけれど、子どもたちの先生をしていたわたしにとって、子どもがこんなに痩せていることも、食べるものがないことも許せないことだった。
「詩花さま、わかりました。この子は牢屋にいれません」
顔立ちの整った青年はキリっとした目尻を下げて子どもの頭を撫でた。
「大丈夫か? 帰る家はあるか?」
「ないよ。お父さんもお母さんも病気で……」
子どもの言葉には青年も困った様子だ。
「わかりました。この子をわたしの家来にしましょう」
「ええっ!?」
わたしの発言には子どもも青年も、追いかけていたおじさんまでも驚いていた。
「あなたの帰るべき場所はわたしのそばです」
「す、すごいな。詩の県というのはそのように豊かな県だったのか……」
青年が思わず声にした。いえいえ、めちゃくちゃ貧乏ですよ。ただ、わたしの助けられる範囲の民はみんな助けるつもりでいる。それが貴族として、領主としてのつとめだからだ。難しい言葉でノブレスオブリージュと言うらしい。
「あなた、名前は?」
「あ、あたしの名前は虹(にじ)といいます」
「海風、虹のために服を買うわよ」
⭐︎虹を可愛くしてあげよう! 塗り絵⭐︎